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間質性肺炎

 

どのような病気か

「呼吸」は吸った空気(吸気)を、気道を介して、肺の奥にある「肺胞」と呼ばれる部屋に運び、肺胞の薄い壁の中を流れる毛細血管中の赤血球に酸素を与えると同時に二酸化炭素を取り出すガス交換をし、それをまた呼気として吐き出す運動で、生きていくために欠かせない作業です。間質性肺炎はさまざまな原因からこの薄い肺胞壁に炎症をおこし、壁が厚く硬くなり(繊維化)、呼吸をしてもガス交換ができにくくなる病気です。

 

 肺胞壁は保たれていても、肺の最小単位である小葉を囲んでいる小葉間隔壁や肺を包む胸膜が厚く繊維化して肺が膨らむことができなります。繊維化が進んで肺が硬く縮むと蜂巣病変といわれるような穴(嚢胞)ができ、胸部CTで確認することができます。

 特徴的な症状としては、安静時には感じない呼吸困難感が、歩行中や入浴・排便などの日常生活の動作の中で感じるようになります(労作時呼吸困難)。季節に関係なく痰をともなわない空咳(乾性咳嗽)が出ます。

 

間質性肺炎の原因

 間質性肺炎の原因には、関節リウマチや多発性筋炎、サルコイドーシスなどの膠原病(自己免疫疾患)、職業上や生活上での粉塵(ほこり)やカビ・ペットの毛・羽毛などの慢性的な吸入、病院で処方される薬剤、漢方薬、サプリメントなどの健康食品、特殊な感染症など様々あることが知られています。これらの原因がない場合にのみ特発性間質性肺炎と診断します。なお、喫煙は最も重要な危険因子と考えられており、禁煙をすることが大切です。

 原因が様々あるため、問診(既往歴・職業歴・家族歴・喫煙歴など)、肺機能検査、血液検査、高分解能コンピューター断層画像(HRCT)やいままでの検診時の胸部レントゲン画像の変化からなる画像情報、そして外科的な肺生検から得られる病理組織情報などから総合的な判断が必要となります。

 

特発性間質性肺炎の分類について

  • 主なものには以下の三つがあります。

    • 特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)

    • 非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia:NSIP)

    • 特発性器質化肺炎(cryptogenic organizing pneumonia:COP)

  • 頻度低いものには以下の二つがあり、両者とも喫煙関連で起こるものです。

    • 呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患(respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease:RB-ILD)

    • 剥離性間質性肺炎(desquamative interstitial pneumonia:DIP)

  • まれとされるものには以下の二つがありますが、AIPは疾患の重篤性から常に念頭にいれておく必要がある疾患です。

    • リンパ球性間質性肺炎(lymphocytic interstitial pneumonia:LIP)

    • 急性間質性肺炎(acute interstitial pneumonia:AIP)

 

  • これらは病理所見により本来は分類されるべきものですが、侵襲性の問題からCT所見で推測することが多いです。

  • また,2013年のATS/ERSからの合同ステートメントでは,特発性PPFE(pleuroparenchymal fibroelastosis)という,以前から日本では網谷病としてしられていた疾患も取り上げられています.

Am J Respir Crit Care Med 2011; 183: 788-824

Am J Respir Crit Care Med 2013; 188(6): 733-748

 

  • IPF では肺全体においても小葉内においても病変の不均一さが認められることが病理上の特徴であり、これはCT画像ではすりガラス陰影,末梢血管影の不規則な腫大,小葉間隔壁の肥厚,牽引性気管支拡張や蜂巣肺の混在として描出されます。病変が進行すると,所見はほぼ全肺にわたって認められますが,病初期には背側の末梢に優位な非区域性の分布を示します。

  • 一方、NSIP では両側性,多発性のすりガラス陰影から濃い浸潤影までが胸膜からわずかに離れた部分を中心としてみられることが多く、病変が気管支血管束に沿って分布したり、Subpleural curvilinear shadow(SCLS)も比較的多くみられますが、一般的に蜂巣肺は認められず所見が肺全体において空間的,時間的に均一であることも大きな特徴です。特にNSIP では牽引性気管支拡張と病変のある肺葉の容積減少は肺胞構築の荒廃を示唆する重要な所見です。

 

  • 特発性間質性肺炎の場合、安静時の動脈血酸素分圧が70Torr未満の場合か80Torr未満でかつ6分間歩行時のSpO2が90%未満の場合は医療費助成の対象(指定難病)となります。

 

 

過敏性肺炎

 

 吸入抗原による間質性肺炎において吸入物質が無機物質による場合は一般に塵肺(珪肺・炭鉱肺・アスベスト肺・アルミニウム肺など)と総称されます。吸入物質が有機物質による場合は一般に過敏性肺炎と総称されます。日本における835例の過敏性肺炎の内訳は夏型過敏性肺炎(74.4%)が最も多く、農夫肺(8.1%であるが北海道・東北ではより多い)、加湿器肺・空調機肺(4.3%)、鳥関連過敏性肺炎(4.1%)が続き、その他のタイプは2.3%、原因不明が6.8%とされています(J Allergy Clin Immunol. 1991 May;87(5):1002-9.)。

慢性に経過する過敏性肺炎は時として間質性肺炎と紛らわしいことがありますが、吸入抗原であるため下葉優位とならずランダム分布上葉優位となる傾向があり、また肺野末梢優位よりは気管支血管束にそった分布やランダム分布になる傾向があります。また小葉中心性陰影Air trapを反映した低濃度の汎小葉領域がある場合も経気道的な機序、つまり過敏性肺造炎を示唆します(Radiology. 2008 Jan;246(1):288-97.)。日本における222例の慢性過敏性肺臓炎は鳥関連過敏性肺炎(60.4%)が多く、夏型過敏性肺炎(14.9%)が最も多く、住居関連過敏性肺臓炎(11.3%)が続きます(その他の原因は13.6%)。なおバチ指(32.7%)、抗核抗体(24.3%)、RF(23.8%)、MPO-ANCA(4.3%)を認めることがあることに注意が必要で、KL-6も1448[872-3170] U/mlと高値になるため血液検査での特発性間質性肺炎や膠原病肺との鑑別は困難と思われます(Respir Investig. 2013 Sep;51(3):191-9.)。鳥関連過敏性肺炎の診断には鳥特異抗体が診断に有用ですが特異抗体や皮内テストは鳥飼育者であれば高頻度で陽性化するため診断に有用ではないという報告もあります(Medicine (Baltimore). 2008 Mar;87(2):110-30.)。また慢性型では特異抗体の診断特性は低く(感度26-34%、特異度87-88%、AUC0.51-0.56)、リンパ球増殖試験のほうが優れます(感度46%、特異度91%、AUC0.68)が検査の発注が困難です(Respir Investig. 2015 Jan;53(1):13-21.)。そのため鳥の飼育歴のみならず公園などでの鳥との接触や羽毛布団の使用についての詳細な確認が大切となります。

 

 

膠原病肺

  • 特性間質性肺炎ではIPFが多いですが、膠原病肺ではNSIPの像をとることが多いとされます。

  • 胸水・心嚢水は特発性間質性肺炎では原則として認めないため、これらがあれば膠原病肺を示唆します。

  • 食道拡張もあれば全身性強皮症を示唆する所見であり膠原病肺を疑います。

J Comput Assist Tomogr. 2009 May-Jun;33(3):410-5.

 

  • その他、気道病変があればリウマチ肺やシェーグレン症候群による間質性肺炎を考えたり、リンパ球性間質性肺炎はシェーグレン症候群との関連が強いといわれています。

 

  • PM/DMで筋炎、関節炎、ゴットロン徴候、機械工の手を高頻度に伴う抗ARS抗体症候群では間質性肺炎はほぼ必発にも関わらず軽症であることが多いです(PLoS One. 2013;8(4):e60442.)。一方で筋炎症状の乏しいclinically amyopathic dermatomyositis(CADM)は,治療抵抗性の急速進行性間質性肺炎を併発することが知られており、この場合はCADM-140 抗体が陽性であることが多いです。CADM-140抗体(保険未収載)陽性例では下葉有意な浸潤影・スリガラス陰影もしくはランダム分布のスリガラス陰影を認めることが多いが、下葉有意の網状陰影や小葉内隔壁肥厚を認めることはなかったという報告があります(Respir Med. 2011 Sep;105(9):1380-7.)。

 

  • 抗核抗体、リウマチ因子、抗CCP抗体、抗ARS抗体、抗SS-A抗体、MPO-ANCAは臨床的に膠原病がなくても間質性肺炎が先行することがあるため検査を検討します。全身性強皮症は間質性肺炎単独で発症することは少なく抗核抗体である程度検出できますが、キャピラロスコピーによる診察までは当院では必須で行っています。

    • 抗ARS抗体は抗Jo-1抗体を含む5種類の抗体を同時に測定が可能です。抗Jo-1抗体は多発性筋炎との関連性が強いですが、筋炎や強皮症症状を伴わずに間質性肺炎のみで発症した場合は抗Jo-1抗体以外の抗体が陽性な例が多いため、抗Jo-1抗体を測定するよりも抗ARS抗体を測定したほうが感度を高めることができます。抗ARS抗体とCADM-140抗体は排他的な関係にありますが、抗ARS抗体が陽性でもCADMはあるため、臨床所見(皮疹の有無)が大切になります(PLoS One. 2013;8(4):e60442.)。

 

  •  特発性肺線維症(IPF)はあまり有効な治療法が確立しておらず、診断からの生存期間中央値が2~3年ともされ(Am J Respir Crit Care Med. 1998 Jan;157(1):199-203.)、非常に予後の悪い疾患です。しかし膠原病による場合はIPFパターンであっても比較的予後がよいとされます(Am J Respir Crit Care Med. 2007 Apr 1;175(7):705-11)。

 

 

 

 

 当院総合診療科では、膠原病(自己免疫疾患)に伴う間質性肺炎、それ以外が原因の間質性肺炎、原因を特定できない特発性間質性肺炎、いずれのものでも治療が可能です。

 

 

 

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