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感染予防について
膠原病の治療を受けている患者さんはステロイド薬や免疫抑制薬を服用している場合が多いため、感染症に弱い状態になることが多いです。また、感染すると重篤化したり基礎疾患の病状を悪化させる可能性があるため感染予防が大切です。
できるだけ人ごみを避け、必要に応じてマスクを着用し、外出後には手洗いやうがいをする習慣をつけましょう。また、ウイルス感染にかかり易い子どもとの接触(特に発熱や発疹がみられる場合)も可能であれば避けることが望ましいです。生・半生の肉や卵、海産物などの摂食も避ける方がよいでしょう。
また、インフルエンザワクチン接種はインフルエンザの合併症で重症となる割合をかなり減少させることができるといわれているため、接種してください。同様に、免疫抑制状態の患者さんに接触する人々にも、ワクチンを接種することは大切です。肺炎球菌ワクチンの接種によって、肺炎の原因菌として最も頻度の高い肺炎球菌の感染を防ぐことも必要です。
感染予防を徹底的に実践しても、感染症を完全に回避することは困難です。発熱など感染症が疑われる症状がみられた場合には、お薬手帳を持参し早めに受診するようにしましょう。
特別な感染症予防
自己免疫疾患患者で感染症のリスクが高い人で無症状でも“予防的に”投薬を行う感染には潜在性結核感染、Pneumocystis肺炎、B型肝炎ウイルスの3つがあります。
Pneumocystis肺炎
Pneumocystis肺炎は一旦発症すると重篤な肺炎となるため注意が必要です。免疫抑制療法を受けている方が発熱・空咳・息苦しさが出現した場合はすぐに受診する必要があります。
予防投与すべき明確な基準はありませんが、以下を参考にします。
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免疫疾患に合併するニューモシスチス肺炎の予防基準. 厚生労働省免疫疾患の合併症と治療法に関する研究班 2004年度報告書
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年齢50歳以上(感度70%)で、かつ以下のうちいずれかを満たす場合(感度75%)に予防投与を行う
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プレドニゾロン換算1.2mg/kg/日以上(感度40%)
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プレドニゾロン換算0.8mg/kg/日以上かつ免疫抑制剤併用時(感度5%)
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免疫抑制剤使用中で末梢血リンパ球数500/μL以下(感度50%)
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Jpn J Clin Immunol. 2009;32(4):256-62.
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上記基準だけで全例の予防は不可能であるため、プレドニゾロン15mg/日×2ヶ月以上、リンパ球数<1000/μLなども参考にする。
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プレドニン16mg/日を8週間でPneumocystis肺炎のリスクが上昇する(Mayo Clin Proc. 1996 Jan;71(1):5-13)。
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Pneumocystis肺炎患者の91%はリンパ球<1000/μLで、CD4<300/μLであるのが91%である(Chest. 2000 Sep;118(3):712-20)。
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関節リウマチ患者のPneumocystis肺炎ではリンパ球数は平均1029/μLであった(Intern Med. 2008;47(10):915-23.)
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リウマチ患者ではステロイド併用患者が多いが、MTX少量単剤でも報告がある(Mod Rheumatol. 2008;18(3):240-6.)。
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予防にはST合剤(バクタ)を1日1錠、もしくは2錠を週に3回内服します。
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主にHIV患者においてのデータですがもっとも信頼性が高いのはST合剤で、ペンタミジン(べナンバックス)吸入、アトバコン(サムチレール)の順
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ST合剤は半量でも有効との報告もあり忍容性に合わせ減量可(Semin Arthritis Rheum. 2011 Dec;41(3):497-502./Mod Rheumatol. 2013 Jul;23(4):752-8)
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1ヶ月あたりの費用はST合剤(1日1錠)は2,220円、べナンバックス(300mg/月)7,618円、サムチレール(1500mg/日) は103,6201円べナンバックスは1)β吸入薬を先行吸入、2)妊婦が吸入しないように注意、3)1/3づつ体位を変えて吸入
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ST合剤のアレルギーがある場合は脱感作も行われます
1. 急速な脱感作法
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2万分の1錠(0.00005錠)から1時間毎に10倍量づつ投与する方法でAIDS患者18例において71%の成功率(Clin Infect Dis. 1995 Apr;20(4):849-53.)
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5000分の1錠から15分毎に倍量投与していく方法で非HIV患者42例において98%の成功率(J Allergy Clin Immunol Pract. 2014 Jan-Feb;2(1):52-8.)
2. 比較的緩やかな脱感作法
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200分の1錠(0.005錠)から半日ごとにおおよそ倍量投与する方法でHIV患者17例において77%の成功率(Ann Allergy Asthma Immunol. 2000 Sep;85(3):241-4.)
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200分の1錠から1日ごとに倍量投与していく方法で非HIV患者22例において81%の成功率(J Allergy Clin Immunol Pract. 2014 Jan-Feb;2(1):52-8.)
予防投与では急速な脱感作を行う必要性がないことから、当院では0.005錠を1日2回投与から1日毎におおよそ倍量づつ増加させる方法を行うことが多いです。
潜在性結核感染症
X線上での未治療陳旧性結核病変、生物学的製剤、血液透析などは単独でも活動性結核発病リスクが高いため積極的に治療を検討します。またステロイド、免疫抑制剤、コントロール不良の糖尿病、喫煙、胃切除、低体重などはリスク要因が重複した場合に治療の検討を行います(平成25年の潜在性結核感染症治療指針(Kekkaku. 2013;88(5):497-512.)。
治療薬剤と期間は原則としてINH(5mg/kg/日)の6カ月ないし9カ月内服であり,INHが使用できない場合はRFP(10mg/kg/日)を4ないし6カ月投与します。
胸部レントゲン写真によるスクリーニングを行いますが、胸部CT検査までは必須とは考えられていません。
リンパ球数が少なくてもT-SPOTは有用性が高いと期待されています。
B型肝炎ウイルス再活性化
副腎皮質ステロイド(0.5mg/kg以上)、免疫抑制作用を有する抗リウマチ薬(メトトレキサート,タクロリムス,レフルノミド,ミゾリビン,トファシチニブなど)、生物学的製剤、免疫抑制薬(アザチオプリン,シクロホスファミド,シクロスポリン,ミコフェノール酸モフェチルなど)、リツキシマブを用いる場合はB型肝炎ウイルスが再活性化し重篤な肝炎を起こしうります。
HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体(いずれも感度の高いCLEIA/CLIA法)を測定し、HBs抗原が陽性な場合や、HBc抗体やHBs抗体が陽性で既感染パターンであってもHBV DNAが検出されればエンテカビル(0.5 mg/日 分1 空腹時)の投与を行います。
治療開始後および治療内容の変更後少なくとも6か月間は月1回のHBV DNAのモニタリングが望ましく、6か月以降は、治療内容を考慮して間隔および期間を検討します。
免疫抑制療法終了後,少なくとも12 ヵ月間は投与を継続します。
(B 型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言)