Vaccine for Prevention of Mild and Moderate-to-Severe Influenza in Children
N Engl J Med 2013;369:2481-91.
いろいろ言われるインフルエンザワクチンですが,個人的には小児や若年者に対する投与は,議論の余地がないくらい意味があると思ったりしています.
phase3の論文.
randomized, controlled, observer-blind study
目隠しは観察者だけ.
患者
3-8歳の子供,15のセンターで国はバングラデシュ,ドミニカ,ホンジュラス,レバノン,パナマ,フィリピン,タイ,トルコ.
介入
QIV(4価インフルエンザワクチン)
コントロール群はA型肝炎ワクチン
Primary end point
あらゆる重症度のPCR確定のインフルエンザA, B感染
拾い上げは,flu-like symptomで,詳細の記載あり.
信頼区間のlower limitが30%以上であるときにefficacyありとする.FDAの基準に則っている.
Secondary end points
中等度から重症のPCR確定インフルエンザA, B感染
中等度以上とは,39度以上の発熱,中耳炎,下気道症状,肺外合併症のどれかを満たしたもの.
副作用もチェック.
その他,インフルエンザのsubgroups別や,年齢層別でも検討している.
割り付けはランダムに1:1
方法は多分appendixに書いてある.
目隠しはは観察者のみ.
total vaccinated cohortとper-protocol efficacy cohortを両方行っている.要するに前者がITTみたいなもの.
予防のための,手洗いやうがいなどの記載はなく,また,発症後の解熱薬などの使用の記載もなし.
efficacyを60%と見積もり,罹患率を6%として,5200人くらい必要.
結果
5220人あつまり,結局5168人がtotal vaccinated cohortにentry.
per-protocolでは,4777人まで減少.
検出されたインフルエンザのsub groupはこのような感じ.
日本で多いB/Yamagataが少ない.
結果は,total vaccinated cohortでは,あらゆる重症度のインフルエンザに対しては,
efficay 59.3% (45.2 - 69.7)
moderate to severに対するefficacy 74.2% (51.5 - 86.2)
いずれもFDAの基準は超えている.
per-protocolでも同様の結果.
その他,実際の臨床像も,全体的に良い傾向.
39度以上が少なかったり,下気道症状が少なかったり,学校を休んだり,両親が面倒みるために休まないと行けなかったり,病院を受診する必要が減ったりといいことづく目.
副作用に差はないものの,ワクチンとしても痛みや発赤,腫脹は多めみたいですね.
読んでみて.
3価と比べてどうなのかということは,わからないですが,打っておいて損はないでしょう.
3価と比べなかったのは,多分そこまで有意差は出ないであろうということ,でも,肝炎ワクチン(要するにただのコントロール)と比較して良ければ,なんだかんだ言って4価使ってしまうだろうということを見越している雰囲気が見え隠れします.
これを受けて,途上国と日本とで状況は異なるものの,ワクチン接種は小児には勧められるのでしょうが,我々がよく診る高齢者ではどうかは分かりません.
しかしながら,若年者に対するインフルエンザワクチン接種は,高齢者をも守るという論文も(Association of Influenza Vaccination Coveragein Younger Adults With Influenza-Related Illnessin the Elderly)ありますし,やはりワクチンの問題は自分だけよければいいという考え方では良くないのでしょう.
もう少し,日本でも”集団免疫”という考え方が広まってほしいものです.
歴史を見ればわかることですが,ジェンナーが牛痘を”使用人の”子供に接種し,かつ,その後に天然痘を接種して予防を証明したのが1796年.
大航海時代にエルナン・コルテスがテノチティトランを陥落したのが1521年.当然,天然痘ワクチンなんてないわけですが,天然痘にnaiveな集団であるアステカ人は,天然痘により,ほぼ人口の半分を失い,そして征服されています.
1531年のフランシスコ・ピサロによるインカ帝国征服も天然痘によるワイナ・カパックの死亡がきっかけになってます.
ミシシッピ首長社会も1492年から1600年代後半にかけて疫病により絶滅しているし,太平洋の各島でも同様のことが生じています.
他にも,挙げればきりはありませんが,当時ワクチンもない状況で,ヨーロッパでは,天然痘で致命的な打撃を受けずにすみ,新大陸では人口の半分を失うことになったのは,長い時間をかけて,いつもそこそこの人が罹患しており,免疫を持っていたからです.
わかりやすく言えば,隣の人が免疫を持ってくれているから自分はかからないということです.実際,テロの脅威として”天然痘”は言われていますし.
インフルエンザと天然痘は違うと考えるかもしれませんが,基本再生産数が異なり,それにより集団免疫率も違ってくるだけで,本質的には同じです.インフルエンザワクチンが,本当に他人に移す可能性まで減らすかはわからない部分もありますが,先ほどの高齢者を守れたという論文もあるわけですし,打たないということにはならないように思います.
日本は,何故かワクチンの話になると陰謀説や,結局罹患するという理由で打たない人がいますが,ナンセンスです.どちらかと言えば,何故か今年はこの程度のエビデンスで,高い4価ワクチンばかりになったことの方が不思議です.
ちなみに,歴史の話は「銃・鉄・病原菌 ジャレド・ダイアモンド」から引用しました.
有名な本ですが,デング熱,チクングニア熱,ジカ熱と似ている,あのオニョンニョン熱の記載がある渋い本です.