<序文>
私が好きな日本酒に『澤屋まつもと』という京都の銘柄がある。ラベルには「守破離」の文字が刻まれており,これは進化のプロセスを
守:教わった型を守る
破:より良い型を創造し既存の型を破る
離:型から離れて自由自在に扱える
の3段階で表したものである。松尾芭蕉も「型を守るだけでは不十分,型を学ばないのは邪道,型を身につけ発展させることで初めて会得できる※」と述べており,こ れは技能習得における一つの真理と言える。
守破離の視点から外来診療を眺めてみると,型を学べる環境が乏しいように思う。入院診療では複数の医師で回診して所見や考え方を共有できるが,外来では不安を抱えながら一人で対応し,疑問点を相談する程度である。この場合,外来特有の演繹法的推論(仮説に基づく臨床情報の積極的収集)の習得は難しく,身体診察や検査で異 常所見を認めなければ医師・患者ともに不満の残る邪道な外来になりやすい。
<<以下省略>>
筆者が序文で語る通り、外来患者のフィードバックを全例で行っている病院は少ないのかも知れない。丸太町病院では後期研修医が診た外来患者を後でスタッフが全症例チェックしているが、確かに多大な労力を要している。
外来診療における型はベテラン医師ならばだれでも持っている。おそらくベテランでなくても、各々の型を持っていなければ診察にならないのであるから初期研修医であっても自分の型を持とうと頑張っているはずであるし、内科医を目指す後期研修医であればなおさらである。基本の型をおさえる事(守)は研修医として身に付けなければならない必須のスキルであるが、ちゃんとした型を習得するのは容易なことではない。そこで本書の登場である。疾患の頻度や重症度を踏まえた上で、机上ではなく実臨床で役立つ型がそこにはある。テーマを25に絞っているのもよい。自分が良く遭遇するトップ10から初めてもよい。自信の持てる型を徐々に増やしていってほしい。自己学習が容易となるように、臨場感あふれるやり取りもあるので内容が濃い割には読みやすいことも好感が持てる。この書籍を何度も読み込み、自分の型として取りこむことができたならば、外来診療は全く違う次元のものになるのではないかと期待する。最終的には、この型を破り、できるならば離れて自由自在に扱えるところを目指して若手医師が奮闘することを望む。
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