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献本御礼:器質か心因か



 非常に共感する内容でした。精神科医 であり詩人でありでもある尾久先生の著書です。心因反応自体が心因となり、負のスパイラルとなる症例など、一般外来でよく遭遇する症例が多く紹介されており、心因反応と器質的疾患を完全に切り離すのではなく、「脆弱性+身体因+心因=転換症状」という図式で考えた場合に心因のみで十分説明しうるかを考える重要性を分かりやすく説明しています。

 私も心療内科学会や精神科学会で内科医の立場から講演した経験がありますが、その時に私が話していた内容と近く、精神科医のプロ目線でも同様なのかと安心しました(講演後、会場からあまり質問がなくちょっと不安だった)。例えば「○○も否定できない」という不安を誘う言葉は病態を増悪させうるため、「個人的にはまずもってそうだと思っている」と言い切っているそうです。これは私が「不安のバトンタッチ」と名付けて今まで行ってきた方法と同じです。検査を行う前に検査結果に異常がないことを予測し、心身相関の話をしておくことも同じでした。心因性と考えても内科医が継続して関わっていく必要性を感じているのも同じでした。

 私とはスタイルが多少違うのは「初診患者の家族構成、恋人の有無などを内科外来でいきなりは立ち入らない」という点と、「検査はする」という点ぐらいでした。丸太では病歴を大事にするので家族構成や仕事の確認は必須としています。学生なら恋人、部活/バイトを聞く事多いです(残念ながら聴取していない研修医カルテに遭遇することは度々あり、私が激怒しています)。恋人聞かないということは発熱患者でIMを鑑別にあげていないことになりますし、部活聞かないならば集団生活で伝播する感染症やリケッチアなどの鑑別を考えていないことになるからです。私はこれらを聴取しながら○○は心配いらなさそうですね、と注釈を加えながら聴取するので雰囲気がおかしくなることはあまりないと思っていましたが、相手に不快な感情を抱かれないように逆に注意しようと思いました。検査に関しては私の外来ではすでにDrショッピングとなっている患者さんも多いためか、あるいは診察に時間をかけているためなのかは分かりませんが、紹介患者であれば検査をしないのがデフォルトとなっています。ユリシーズ症候群も多く遭遇するために結果としてそのようになっていますが、患者群と診療環境の違いですね。本書の内容には納得しました。

 本書は器質と心因を見分ける書籍ではないと言っていますが、両者をかぎ分ける嗅覚を磨きたい若手医師にとっても、簡潔なプレゼンテーションでイメージが湧きやすいので、お勧めできます。一般外来であるいは救急外来で心因に少し踏み込みたい/踏み込まざるを得ない医師にとっては、「どのように”病気”ではないことを伝えていくか」は非常に参考になるでしょう。何よりもコンパクトで手にしやすいサイズと価格なのがいいですね。


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