「極論で語るシリーズ」の最新作です。著者は岩田健太郎先生です。
「極論」と言いながらも懇切丁寧な解説に驚かされました。
”極論とは突き詰めたところまで論ずること 直感的に結論付けず、考えるのをやめないこと”
と記載がありました。なるほど。
まさに考え続ける過程が記されており、そして分かりやすい結論が書かれている。
テーマも「抗菌薬の選択」に始まり、「咽頭炎と中耳炎」「肺炎」「尿路感染」「急性細菌性腸炎」「胆嚢炎」「性感染症」「インフルエンザ」と誰でも知っておくべきテーマに始まり「カテ感染」「骨関節感染」「髄膜炎」と重大で内科医であれば知っておくべき感染症も取り上げており、研修医や総合診療科医向けの内容と思う。深い内容もあるので研修医のみならず指導医レベルにもお勧めだ。最後の「HIV/AIDS」に関する項目はかなりアドバンスな内容であるが、HIV診療の進歩をダイジェストで把握できるものとなっている。
溶連菌性咽頭炎ではどの抗菌薬を何日間用いるかを議論している。結論としてはAMPCを用いるという云わばスタンダードの治療(と私は理解しているが)ではあるが、マクロライドではなく、第3世代セフェムではなくAMPCを用いる理由に至るまでの思考過程とエビデンスに触れることで、理解が深まり、日々の診療に充実感が伴うことは間違いない。
STDの治療も見てみると簡潔かつ丁寧な議論がされている。淋菌をCTRX単独治療という選択枝もある中、耐性菌の存在やウレアプラズマ、マイコプラズマなどPCRでは検出できないものも考えたり・・・・・ということで、淋菌が単独で検出された場合の治療はイワケン的にはCTRX+AZMなど2剤を選択している(1剤がだめというわけではない)。というような記載もあり、エビデンスが不十分な分野では無理に結論づけないが、読者が悩まないために見解は明確にしておくという配慮もありがたい。
正しいと思う事は正しいと言う岩田先生の姿勢も健在だ。 私自身は市中肺炎にカルバペネムを用いようと考えた事がないため知らなかったが、肺炎球菌性肺炎の治療ではカルバペネムは5%で外してしまうそうだ。「肺炎球菌ならペニシリンGだ」という言葉通り私は今後もペニシリンGで戦います。 さらには肺炎球菌性髄膜炎の場合には10%が効果を期待できない。だから日本のガイドラインにあるようなカルバペネムの推奨には疑問符がたくさんつくようである。実はこのガイドラインが出たときに丸太町病院内でも議論を行いCTRX+VCMという岩田先生の推奨と同じ結論になっていたたため、この記載をみて安心した。
また胆道感染はABPC/SBTでよいという結論も、当院が選択している治療法でよかった。緑膿菌はカバーする必要性が低く、グラム陰性桿菌と嫌気性菌、時々腸球菌をカバーできるABPC/SBTで治療失敗することは当院では少なく、記憶にあるものは1例、ESBLが検出されたことがあったぐらいで、スルペラゾンやPIPC/TAZを選択していたとしても外しているのでこれらを選択する理由にはならない。
このようにガイドラインとは異なりNallowな抗菌薬選択ができるのも、自分のいる病院の感受性結果が参照できるからだと思っていたが、この本をみると、日本全体として、よりNallowな抗菌薬選択ができるということなのかも知れない。
極論という言葉通り、ズバッという切り口のものも多い。 カテ先培養を小手先培養に過ぎないと切り捨てたり。 しかしその切り口は鋭いものの、読み手に心地よさを与えてくれる。 忙しい日常診療に埋もれて、深い考察なしに、意図せずとも、有害であることにうっすら気づきながらも行われているであろう、安易な抗菌薬投与、安易な抗菌薬選択、そして安易な医療介入(尿カテなど)に気づかされ、憑き物が落ちたように心が晴れて、極論で語る日常診療への一歩を踏み出させてくれる、そんな1冊です。
医者が患者の目の前で「それは知らないので調べます」と言う。 それが正しい診療を行う上で必要であれば躊躇わずそうすべきである。 これもこの本から学んだことである。
インフルエンザの検査なくても「インフルエンザ診断書」は書けるし、インフルエンザだったとしても、症状が軽ければ治療のメリットが乏しいのであるから(つまり有害性しか期待できない)、迅速抗原検査をする意義はあるのか? という問いかけもある。当たり前の人にとっては至極当然の事ではあるのだが、日本の診療の現実を見つめさせる、実に深い問いかけと思う。
”極論とは突き詰めたところまで論ずること 直感的に結論付けず、考えるのをやめないこと”
この本で、素晴らしい極論に出会えました。