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安易なトロポニン検査に振り回される

41歳男性。夕方に久しぶりに運動し、そのまま打ち上げで飲酒。意識失って救急搬送。病歴的には食後低血圧+起立性低血圧+飲酒による影響でよいが、勢いあまって行った採血でCPK高値。CK-MBは4%未満であるがトロポニンも陽性。余計な採血に振り回されていく・・・・。

今回はこのようなシチュエーションを戒めるメタ解析の報告です。トロポニン、BNP、D-dimerといった比較的優れるとされる心血管疾患のバイオマーカーは運動で高値となりうる

Biomarker changes after strenuous exercise can mimic pulmonary embolism and cardiac injury--a metaanalysis of 45 studies.

Clin Chem. 2015 Oct;61(10):1246-55.

主にマラソン後のデータですが運動後にはCPKのみならずトロポニンも高くなります。これは運動により、機械的ストレス・フリーラジカル・高体温・アシドーシスなどを介して心筋細胞の細胞膜透過性が亢進しcytoplasmic cTnTもしくはcTnIが放出されることによります。 結果としてトロポニンTは運動後には51%の人で陽性(>0.01ng/L)となります。

絶対値としてはトロポニンTで25(5-46)ng/L、トロポニンIで40(21-58)ng/L高くなりますので、結構高くなりますね。

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運動時には心筋負荷かかりますので、運動後には右室拡張末期径が拡大したり右室駆出率低下などが生じるそうですが、左室駆出率は保たれるそうです。

このような心筋負荷に相応して運動後にはNT-proBNPで67(49-85)ng/L、BNPで10(4-17)ng/L高くなりますが、このぐらいであれば診断に大きな影響はなさそうですね。NT-proBNPのほうは半減期が120分ですがBNPは半減期が20分であるために、NT-proBNPが運動後に変動が残存しやすいのかも知れません。

また運動は血小板、凝固系、線溶系に影響を与えます。線溶系亢進は組織から放出されるtPAが関与するとも言われます。tPAはカテコラミン、バソプレシン、低血糖、トロンビン、血管剪断力(Sheer stress)、筋障害により血管内皮細胞から放出され、D-dimer上昇につながります。

D-dimerは0.26(0.17-0.36)ng/L高くなるので時には造影CTをするかどうかの影響を与えてしまうかも知れませんが、著明に高値となることは稀なようです。

トロポニンもBNPもD-dimerも優れた検査であることには異論はないですが、適切な検査前確率の見積りをせずに、こういった安易な検査に走ることは結果として患者にさらなる追加検査負担を強いることになるだけ、ということを肝に銘じ、明日からも修行あるのみ!

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