丸太町病院総診が関与した論文がJAMAに掲載されました!
JAMA. 2016;315(8):788-800.
Supplemental Content:SITE INVESTIGATORS BY COUNTRYの項目に Rakwakai Marutamachi Hospital (Kyoto): Takeshi Ueda と記載されています。とは言っても実際にはほとんど寄与していないですが、、、。
さて、どのような論文かというと、Berlin基準で診断されたICUにおけるARDSの疫学、治療方法、死亡率を調べた観察研究です。観察研究であり、細かいことは分かりませんが、Berlin基準に改定後のARDSの大規模疫学調査として意義の高い研究と思います。
冬季4週間において、50カ国、459のICU施設に入院した患者をエントリーしました。 29,144人がICUに入院し、10.4%にあたる3022人がARDSと診断されました。
ARDS患者の93%は最初の48時間以内に発症し、そのうち85%が侵襲的陽圧換気を受けました。(内訳: 軽症 714例、 中等症 1106例、 重症 557例)
患者背景は平均62歳でCOPD(22%)や糖尿病(22%)の合併は多いでしたが当院の患者層よりは若年でCOPD合併率は低いですが、活動性の悪性腫瘍合併率は8.5%と当院よりは高めの患者群です。 ARDSの要因は肺炎(59.4%)と多く、肺以外の敗血症(16%)、誤嚥(14%)と内科的疾患が主要要因をしめ、外傷(4.2%)・肺挫傷(3.2%)・熱傷(0.3%)・溺水(0.1%)などは少なかったことは当院の患者層と合致していました。
臨床的にARDSを認識されたのは60%のみ。 ARDSの認識を妨げるものとして大きな要因は、ARDSのリスク要因がないこと、心不全があること、外傷があることでしたが、これを議論しだすとARDSの診断基準の問題が生じるため、これ以上は触れないことにします。しかし一つ言えることは臨床の場でARDSの認識ができていないためと思われる、以下のような不適切なマネージメントが世界的にまだ広く行われてしまっていること、そしてそれが高い死亡率につながっている可能性があるという事がこの論文が教えてくれる重要な点です。
人工呼吸器設定は驚くほどARDSにおける一般的推奨と解離していました。
P/F ratioが平均75の重症例でFiO2が0.90(0.88-0.91)であるにも関わらず、VTは7.5(7.3-7.6)ml/kg PBWと多く、PEEPはなんと10.1(9.8-10.4)cmH2Oしかかかっていません。なおピーク圧は30.3(29.6-30.9)cmH2O、換気回数は22.7(21.5-23.8)/分でした。 呼吸状態が悪ければプラトー圧を高めることはするが、一回換気量を下げることには勇気がいるということでしょうか。重症例であってもPaCO2 52、pH 7.27でありもっとPermissive hypercapniaをすべきであることにはあまり異論はないと思うのですが、これもARDSという認識がされていなかったことによるのでしょうか・・・!?。分かりやすくプラトー圧<30、1回換気量<8mL/kgというラインを引くと、36%が不適切な管理という結果です。
その割に重症例では筋弛緩は38%で使用され、リクルートメント(33%)、仰臥位(16%)も意外なほど浸透しているのだと思いました。
なお、初期治療としてNPPVを選択した436例のうち1/3(136例)が侵襲的陽圧換気に切り替わりましたが、逆に言うとNPPVのまま治療完遂できることも多いということなのか、挿管拒否という患者が多かったのか詳細は不明です。
ICUには平均17日在室、ICU生存率66%、生存退院率60.4%でした。
ざっっくりいうと、ICUで1/3が死亡する重篤なARDSですが、その1/3以上が認識されておらず、1/3が不適切な人工呼吸管理をされてしまっているということです。