Cost-effectiveness of high-dose versus standard-dose inactivated influenza vaccine in adults aged 65 years and older: an economic evaluation of data from a randomised controlled trial.
Lancet Infect Dis 2015; 15: 1459–66
年度末,年度初めはジャーナルクラブを止めていた関係で久しぶりの投稿になります.
インフルエンザワクチンのstandard dose(15mcg×3価) vs high dose (60mcg×3価)を65歳以上の高齢者に接種したら,インフルエンザの感染が減ったという論文(N Engl J Med 2014; 371:635-645)から,
今度はコストはどうなの?という論文.
PICOで読むような論文ではないので,ざっくり読むだけで.
QALYは最近はよく言われるものなので,知っておく必要はあるので,よいきっかけになった論文かと思います.
僕がこの病院に来てから2年間のジャーナルクラブでQALYについて検討していた論文は1つだけでしたが,これからはもっと増えてくると思います.
医療費の財源は無制限などではなく,P4P, value based medicineなどと言われる様に,医療の質に対して費用が支払われるべきという世界的な流れの中で,日本は明らかに遅れていると感じています.
個人的には,Physician induced demandと言われる様な,医師が患者を誘導して誘発する需要も,大きな影響を及ぼすほど(自覚的であれ,半無自覚的であれ)明らかに存在していると感じていますし,choosing wisely的な意味でも,もっとコストに意識をもつ必要があります.
コストに意識を持てる実臨床医(経営者ではない)は,多くの場合有能だと感じています.
つまり,検査が不要と言い切れるのは,能力がないとできません.
リスクマネジメントと称して検査しまくる医師は有能ではありません.
QALYで命に値段をつけることには抵抗があるものの,そうしないと,結局,弱者を切っていくことに繋がると感じています.
さて,論文.
その前に,QALYとICERについて簡単に解説しているページがあったので,知らない人はそれをみてください.正直,一から説明し直すのはめんどくさい.
元論文のHigh dose (HD) vs Standard Dose (SD)のdataを使ってcost-effectivenessを評価.
この場合efficacyじゃないのかという疑問はさておき,見ていきます.
Study design
2011-2012(ワクチンの当たり年),2012-2013(ワクチンの外れ年)両方含んでいるので妥当とのこと.
細かいこと抜きで,簡単に言うと,
基本的には
①コストの評価
②効果の評価
を行ってICERを算出したというもの.
①コストの評価
i) 医療費
TCiがi番目の患者のtotal cost
Rijがjという医療資源をi番目の患者が使用した量
Pjがjという医療資源の値段
要するに,使った医療資源を全部足しただけ.
医療資源には,ワクチン,処方薬,外来診察,入院が含まれる.もちろん救急外来などの予定外の外来も含まれる.
ii) 生産性のロス
外来受診を1日と計算して,アメリカ人の平均賃金で計算.
入院も同様.
②効果の評価
結構いい加減..
QOLは,元のstudyの評価項目に入っていないので,同年代のアメリカ人のQOLと,疾患に罹患した時は,その低下した分を推定して評価.
その他,行った事.
①心臓,肺の疾患だけに限ってみた.
これは,インフルエンザに関連した合併症に的を絞るため.妥当かはわからないけれど.
②95%信頼区間をシミュレート.
いわゆる確率的感度分析.
そもそも正規分布しているかわからないので,モンテカルロ法の一つである,bootstrappingで1000回サンプリングを行い,95%信頼区間を算出.
結果
①コストの評価
入院費がHD群で136$安い傾向にあり,totalの医療費も115$安い傾向にあった.
生産性のロスも考慮したものでは,HD群が128$安い傾向.
②効果の評価
入院がHD群で少ない.だから,コストも差がでやすかった.
QALYはほぼ同じ.
ということで,合わせてICERを検討すると,こうなる.
実はsub-group analysisも検討していて,基礎疾患あり,75歳以上でも検討している.
心臓,肺の合併症の分析も含めて,全てでHDが優位(有意ではない)であった.
ちなみに元データからのbootstrappingをmappingするとこんな感じ.
上の図(全疾患含む)では,93%で費用の低下がみられている.QALYは改善していないが,単純に安くなっているので悪くはない.
下の図(心臓,肺の合併症のみ)では94%で左下(第四象限)にplotされており,安いのにQALYの上昇を認めており,有用と言える.
結局のところ,日本では使えないので普段のやることに変化はありませんが,QALY, ICERの勉強がみんなでできたという意味でよかったと思います.