今回、紹介する論文はショック不応のVf/Pulseless VTでアミオダロンの効果はどうかという研究。ついでに過去のRCTをあわせて解析してみた(個々の論文の批判的吟味をしていないので、あくまで個人的見解と捉えてください)。
N Engl J Med. 2016 Apr 4. [Epub ahead of print]
Amiodarone, Lidocaine, or Placebo in Out-of-Hospital Cardiac Arrest.
PMID:27043165
ショックを1回以上しても不応性のVf/pulseless VTで、18才以上、院外、ルートが取れている場合にエントリー。
以下の通り、ものすごい数の対象者を集めた研究で、追跡率も申し分ない。これは後で述べる研究に対する強み。なお、1/3がPer-protocolから除外されているがその多くは初期心電図がショックできない波形だったことによるらしい。
患者背景としては、Vf/Pulseless VTということで2/3でBystanderがいるとのことだがEMSが目撃しているのが5%程度となぜか多い。Bystander-CPRは60%でされており、EMS到着まで6分未満と日本の都市部と同様な環境でしょうか。
薬剤投与まで最低1回、平均3回のショックを受けているが、これは後述する過去の2つの報告では最低3回、平均5回ほどなので、比較的早期に薬剤投与をしたということでしょう。Epinephrineは99%で投与されているのので、Epunephrineを先に投与というACLSの流れと同じ使い方がされているようですが、Bicarbonateを3割近く、アトロピンが4%使われているのはちょっと不思議。またACLS2015ではMgの記載を避けていますが、1割近くで使われているなど普段の臨床とは多少の乖離はありそうです。
さて肝腎の結果ですが、Primary outcomeである生存退院はアミオダロンでもリドカインでもプラセボでも差異はありませんでした。アミオダロン24.4%とプラセボ21.0%の差異は3.2(-0.4~7.0)%ということでもう少し人数を集めれば差異がでたかも知れませんが、臨床的に大きなインパクトはないという結果で残念です。
また神経学的予後もmodified Rankin scoreで全く差異はないようです。
なお、副作用は24時間以内の一時ペーシングが増えた以外には優位に増加したものはありませんでしたが、日本の製剤では添加物(ベンジルアルコールやポリソルベート80)が低血圧を起こしうるため、日本ではさらに予後改善効果は期待できないという見方もできます。
では、Vf/pulseless VTでは今後アミオダロンは廃れていくのでしょうか? 多分そんな事はないと思います。過去の小規模の2つのRCTではアミオダロンの有用性が報告されているからです。過去との報告との違いは、今回はPrimary outcomeをより重要な生存退院率としたために有意差がでていないのではないかと思います。過去の報告はイベント数を増やして有意差が出やすくなるように評価項目を生存入院率に設定しています。今回の報告と、過去のVf/Pulseless VTに対するアミオダロンのRCTの結果を生存入院率で統合すると以下のグラフのようになります(自作してみました)。 Fixed effect modelではアミオダロンの有用性に有意差があり、Random effects modelでもアミオダロンにより生存入院率が高くなることが示唆されます。
なお、ソフトにまだ不慣れで入力できていませんが、1:N Engl J Med. 1999 Sep 16;341(12):871-8.、2:N Engl J Med. 2002 Mar 21;346(12):884-90.、3;今回の論文です。
なお、三つだけの論文なのでなんとも言えませんが、一応Funnel plotを見ると、過去の二つの論文はPublication biasがかかっており、Negative dataが存在するのかも知れません。
今回の論文はアミオダロンとリドカインとプラセボと3群比較でした。そこで、アミオダロンの有用性を対照がリドカインなのかプラセボなのかで分けて比較した場合も見てみます。以前のデータでリドカインに対して有用性が証明されていたアミオダロンですが、今回の研究とあわせると全く差がないように思えます。一方、プラセボとの比較では過去の報告と全く同じような数値が出ており、アミオダロンはやっぱり有用!という結果になります。
ここまで言っておいてなんですが、2:N Engl J Med. 2002 Mar 21;346(12):884-90.の論文は外れ値に見えるのでちゃんと批判的吟味をしたほうがよさそうですね。
メタ解析はとても労力を要します。だから臨床的疑問点をすぐに解決したい時にメタ解析を自分で行うというのは現実的ではありません。でも幸いなことにメタ解析は多数出版されており年々、質もそれなりに高くなってきています(時々、騙されますが)。
そこでインパクトの高い論文が新しく出版された時に、過去のメタ解析に新たな論文を加えどのように結論が変わるかを自分でメタ解析しなおす事が臨床医にとって現実的なメタ解析ではないかと思っています。そうすれば重要な論文が出版された場合、その日のうちに新たなメタ解析の結果が自分で得られることも不可能ではありません。
今後、そういった「ベッドサイドで行うメタ解析」を実践してみたいと思う今日この頃です。