Placebo effect of medication cost
in Parkinson disease
Neurology® 2015;84:794–802
今日は担当だったので,一風変わった論文を選んでみました.
”安い”プラセボ”と”高いプラセボ”をパーキンソン病患者に投与したところ,後者の方が他覚的にも効果が高かったというものです.
ペインの世界では,よく言われることですが,値段の様な外的要因がプラセボ効果に影響すると言う話.PDでもやってみたらどうだろうということで,やってみた.
Patients
12人のレボドパが著効する(onでS&E score≧85,offで80>S&E score≧70)PD患者.
exclusion criteria
7つあったけどどれも妥当.
Intervention
高いプラセボ(生食)と安いプラセボ(生食)
Outcomes
Primary Otucome: UPDRS-IIIによって運動機能を評価
Secondary outcomes
S&E, Hoehn and Yahr, CGI scale, Likert severity sclae, tapping apparatus, Purdue Pegboard Test, fMRIによる評価.
サラッと細かい所を見ていく.
double-blined cross over study
このような感じで,まずレボドパの投与前後で評価.
次にoffの状態で,ランダムに”安い-->高い”群と”高い-->安い”群に割りつける.
wash out期間は4時間.これが妥当かは分からないが,患者が,offになったという自覚があってから次の投与を行っている.
4時間なので時期効果は無視出来る.
両方プラセボなので,薬効としてのcarry overは存在しないが,プラセボ効果のcarry overは生じ得る.
割り付け
封筒によるもの.
目隠しは患者,および評価者.
患者は研究目的を知らない.高い新薬のもともとの薬に対する同等性を見る試験と説明されている.
評価者は,目の前の患者がどちらに割り付けられているかしらないものの,研究目的は知っている.
sizeの評価はされていない.とりあえず12人やってみたという感じ.
統計解析
統計学的にしっかりしていた論文なので,その点が興味深かった.
baseline(レボドパに対する反応)はpaired t検定.
UPDRSの改善度に関してはWilcoxon.改善度はそりゃノンパラと考えるべき.
cross overにおける治療介入前後の評価はunpaired t検定を行っている.
当たり前と言えば当たり前だが,Neurologyに載る様な論文で間違ってもここでpaired t検定とかしていない.
レボドパ投与前後,高いプラセボ,安いプラセボがあるので検定回数がかさむ.
ここであえてANOVAとかを行うのでなく,シンプルにBonferroniでp値を補正.
この辺りの謙虚さに好感が持てる.
結果
有意差だけで言えば,”高い-->安い”群において,”高いプラセボ”の方が効果が高かった.
と言うことで高い-->安い群のデータをみてみる.
改善した度合いは,レボドパ>高いプラセボ>安いプラセボの順であった.
fMRIなどというのは,血流の増加を見ているだけであって,本当に電気的活動性が増加しているかを表しているわけではない.大した意味はない.
レボドパを投与すると,タスクをさせた時のfMRIにおける脳活動性?の低下がみられた.
安いプラセボでは,症状はあまり良くなっていないのにfMRI上の活動性は増加.
高いプラセボでは逆に活動性は低下.
効果の期待値が小さいと,タスクを行う努力が必要だから安いプラセボで活動性が上がったという説明.
結局,何ともいえないところがあるが,値段が高いと伝えれば効果がおよそ2倍高くなった可能性がある.
どっちもプラセボなので,普段の臨床に影響はないが,この論文の重要な点は以下の3点にまとめられると思う.
①期待が大きいと,思った以上にプラセボ効果も大きくなる.
②RCTにおいて,(特に使用できるのに)placeboを使用していない論文は無視するか割り引いて考える.
③ちゃんとplaceboと比較したRCTで評価されていない巷の民間療法は非倫理的である.
③については,私の意見ではなくdiscussionに彼らが記載していた.
かなり辛辣な意見だとは思ったが,PDに対して,効果が効果が示されなかったグルタチオン投与やまだ効果が証明されていないstem cellの髄注を一回€6000から€30000で行っている非倫理的な"stem cell clinic"の存在を批判している.
弱くなっていく報酬期待に対する反応(つまりプラセボ効果)を同程度得るために,何度もboosterが必要になっていく.
このような自体を彼らは”the unethical commercialization of "the stem cell miracle""とまで言っている.
彼らは謙虚にも自分たちの専門であるPDのことしかコメントしていないが,似たような批判されるべき怪しい民間療法は無数にあると感じる.