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プライマリケアにおいて,高リスクの処方と,予防可能な薬剤関連合併症はよくみられる.プライマリケア医による高リスク処方とそれに関連する臨床転帰の発生率が,複合的介入によって低下するかどうかを評価した. N Engl J Med. 2016 Mar 17;374(11):1053-64.
【この試験の結果は信頼できるか】 1 その試験は焦点が明確な課題設定がなされたか ? ‐ 研究対象者 NSAIDや抗血小板薬の副作用ハイリスクなプライマリケア患者 ①消化性潰瘍患者での消化管保護薬なしのNSAIDs・アスピリン ②75歳以上の患者で消化管保護薬なしのNSAIDs ③65歳以上でアスピリン内服中の患者での消化管保護薬なしのNSAIDs ④65歳以上でクロピドグレル内服中の患者での消化管保護薬なしのNSAIDs ⑤経口抗凝固療法中で消化管保護薬なしのNSAIDs ⑥経口抗凝固療法中で消化管保護薬なしのアスピリン・クロピドグレル ⑦RAS系阻害薬もしくは利尿剤を内服中の患者でNSAIDs ⑧CKD患者でのNSAIDs ⑨心不全既往患者でのNSAIDs - 検討対象となった介入(治療) 開業医が専門家による1時間の教育、8週後づつニュースレターと教材を用いた教育。 適切性を検討する目的で患者の病歴の見直しをさせるための金銭的インセンティブ(初回350ポンド≒6万円、その後15ポンド≒2500円/患者) 電子カルテから情報を抽出するのを助けるシステム これを48週間 - 検討された転帰(評価基準) 主要転帰は,非ステロイド抗炎症薬(NSAID)または特定の抗血小板薬の高リスク処方に関する 9 つの指標のいずれかへの患者の曝露とした. 事前に規定した副次的転帰は,関連する入院の発生などとした.
2 その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられていたか ? RCT 3 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか ? 開始日の違う10個の群に分けて介入前後の比較。ベースラインに特に気になる点はない。
4 研究対象者(患者)、現場担当者(医者など)、研究解析者は割付内容を目隠しされていたか ? 目隠しされていない 医者に目隠しは不可能 解析者のみ目隠し 5 研究にエントリーした研究対象者全員が、研究結果において適切に評価されたか? 全例解析を intention-to-treat の原則に従って行い, 日付のクラスタリングを考慮するために混合効果モデルを用いた. 6 研究対象となった介入以外は、両方のグループで同じように治療が行われたか? 詳細不詳 7. その研究の対象患者数は、偶然の影響を小さく留めるのに、十分な数であったか? 先行研究で83%のPower、25%のPrimary outcome減少、α0.05として計算されている 【結果は何か ?】 8a 結果はどのように示されたか ? 34 の診療を無作為化し,うち 33 の診療が研究を完了した. 介入前の期間に 1 回以上の時点で危険因子を有していた 33,334 例のデータと,介入期間中の 1 回以上の時点で危険因子を有していた 33,060 例についてデータを解析した. 標的とした高リスク処方は,介入直前の 3.7%(危険因子を有する患者 29,537 例中 1,102 例)から,介入終了時には 2.2%(30,187 例中 674 例)へと,有意に低下した(補正オッズ比 0.63,95%信頼区間 [CI] 0.57~0.68,P<0.001).インターベンションを終了後(48W)も効果が持続していることが今回の研究のウリ。
消化管潰瘍・出血による入院率は,介入前の期間から介入期間中にかけて有意に低下し(10,000 人年あたり 55.7 件から 37.0 件に減少,率比 0.66,95% CI 0.51~0.86,P=0.002),心不全による入院率も有意に低下したが(10,000 人年あたり 707.7 件から 513.5 件に減少,率比 0.73,95% CI 0.56~0.95,P=0.02),急性腎障害による入院率の低下は有意ではなかった(それぞれ 10,000 人年あたり 101.9 件から 86.0 件に減少,率比 0.84,95% CI 0.68~1.09,P=0.19).
8b 最も重要な結果は何であったか ? 9 その結果はどの程度正確か ? 専門家による教育,情報科学,金銭的インセンティブを組み合わせた複合的介入により,抗血小板薬および NSAID の高リスク処方は,介入直前の 3.7%(危険因子を有する患者 29,537 例中 1,102 例)から,介入終了時には 2.2%(30,187 例中 674 例)へと,有意に低下した(補正オッズ比 0.63,95%信頼区間 [CI] 0.57~0.68,P<0.001). NNTは67 【その結果はあなたの現場で役立つか?】 10 その結果はあなたの現場での対象者に当てはめることができるか? 英国でのGPシステムと異なり、 日本では処方薬が様々な医療機関から処方されてしまうことが多く、 今回の結果をそのまま当てはめることはできない。 11 全ての重要な転帰が考慮されていたか?
消化性潰瘍ハイリスク群に消化管プロテクトするのは日本では比較的よくされている。
今回の介入はタイトル通り「安全な処方」という意味では理解できるが、
「適切な処方」としての評価ではなく、全例にPPI処方したとしても同じ結果が得られてしまう。不適切なPPI処方も同時に評価してほしかった。
また、慢性腎臓病がある場合にはNSAIDsが控えられたが、薬剤を控えることで生じるデメリットが考慮されていない。疼痛スコア・QOLはどうだったのか。アセトアミノフェン代用できる状況であれば、日本の総合診療科医(少なくても当院では) がNSAIDを用いる状況は考えにくいため、今回の介入結果がそのまま適応できるとは思えない。 12 この臨床試験結果に基づいて、健康政策や方針、医療内容を変えるべきか?
インターベンション後も効果が持続していることは評価できる。
しかし、金銭的インセンティブを与えることには私は同意できない。
初回6万円を支払い、その後一つの安全な処方を増やすために17万円づつ払うことが適切な教育方法なのだろうか? 論理的ながらも道徳的であるべき医学教育の世界に、資本理論を持ち込むことは行動経済学的には賢いとは言えない。金銭的インセンティブが必要であるとすれば悲しい話である。