JAMA Intern Med. 2015 May;175(5):691-700. 予後が限られている患者にとって、投薬するリスクが恩恵を上回る薬剤がいくつかある。 特に利益が生じるまで数年かかる場合が該当し、スタチンはその薬に当たる。 余命が限られた患者にスタチン投与を中止することのリスクや利益に関するデータはない。 緩和ケアにいる患者に対し、スタチン投与中止による安全性、臨床的や費用の影響を評価することを目的とした。 1 その試験は焦点が明確な課題設定がなされたか ? - 研究対象者 18歳以上、英語話す 予後が1ヶ月~1年と予想される患者で、 心血管病の一次あるいは二次予防のためにスタチンを3ヶ月以上内服しており、 身体機能の低下が最近みられる患者とした。 直近の活動性のある心血管系疾患、肝障害、横紋筋融解症、スタチン禁忌症例は除外 - 検討対象となった介入(治療) 対象となる患者は、スタチン継続群と中止群にランダム化された。 継続群は、スタチン処方を継続された。 - 検討された転帰(評価基準) 60日以内の死亡、生存率、心血管イベント、 performance status、 QOL、症状、スタチン以外の処方数、費用節約をアウトカムとした。 1年後まで毎月観察された。 2 その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられていたか ? yes 3 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか? 4 研究対象者(患者)、現場担当者(医者など)、研究解析者は割付内容を目隠しされていたか ? 多施設パラレル試験で、非盲検の実用的な試験 5 研究にエントリーした研究対象者全員が、研究結果において適切に評価されたか? 全ての分析は、 intention to treatで解析された。 中止群189例中7例が脱落。継続群192例3例が脱落 → 追跡率は良い
7. その研究の対象患者数は、偶然の影響を小さく留めるのに、十分な数であったか? 生存期間の中央値が13週間で2週間の差異があるとして、各群600名、1200名必要。 その後試験途中の解析で中央値9ヶ月となり、再計算すると30000以上 → プライマリ・エンドポイントを全死亡率から試験介入から60日以内の死亡に変更し、サンプル数は360となった。
6 研究対象となった介入以外は、両方のグループで同じように治療が行われたか? 詳細に記載がない。 10 その結果はあなたの現場での対象者に当てはめることができるか?
381名が登録され、そのうち189名がスタチン中止にされ、 192名が継続群に割り当てられた。平均年齢は、 74.1歳で、参加者の22.0%は認知症があり、 48.8%は担癌患者であった。
→高齢者が多いのは当院と同じだが、担癌患者は少なく、認知機能障害はより高頻度でありバックグラウンドは大分異なる。
【結果は何か ?】 8a 結果はどのように示されたか ? 8b 最も重要な結果は何であったか ? 9 その結果はどの程度正確か ?
中止群と継続群とでは、 60日以内の死亡率に差はみられず(23.8% vs 20.3% 90%信頼区間 -3.5%~10.5% P値 0.36)。非劣性エンドポイントに達せず。 → 中止群のほうがむしろ1年生存率が高いが、カーブをみると半年間は継続群のほうが高い。スタチン中止によるプラーク不安定化の時期を乗り切れば有害事象少なく(スタチンは神経障害などの報告もある)メリットが上回るなどの考察もできるかも知れないが、より大規模なデータがでるまでは両者に差異はないと考えるのが妥当だろう。
全体的なQOLは、スタチン中止群の方が良かった。 (McGill QOLスコアの平均 7.11 vs 6.85; P値 0.04)
スタチン中止群ではそれ以外の薬剤の使用も少ないのはなぜだろう?不要な薬剤中止の連鎖反応(Deprescribing Cascade)など交絡因子の可能性は否定できず。
心血管イベントが起こった患者はほぼいなかった。 (中止群で13人vs継続群で11人)
費用削減は、$3.37/日で試験期間中で$716であった。
11 全ての重要な転帰が考慮されていたか? 12 この臨床試験結果に基づいて、健康政策や方針、医療内容を変えるべきか? この試験だけではなんとも言えない。 非盲検試験でその後の介入が同等だったかには疑問が残ることは、信頼性を下げる。 しかし、平均余命が1年未満と推測される状況でスタチンによる心血管系イベントの予防効果、あるいは生存率の改善効果が得られる可能性は低いと考えるは当然ではある。
我々がこのような状況でスタチンの中止を提案することは妥当であると思われるが、直近のACS既往があるには例外である。
また、スタチンの副作用で、ALS、末梢神経障害、認知機能障害などの神経障害との関係が取りざたされているため、高齢者終末期医療においては今回検討されなかったこれらの神経学的副作用も検討項目の一つとして加えた大規模な研究がおこなわれることを望む