N Engl J Med. 2016 Jul 14;375(2):122-33
背景 急性腎障害(AKI)を呈する急性重症患者で,腎不全に直接関連する,生命を脅かす可能性のある合併症がない例での腎代替療法の導入時期は,議論の的となっている. 方 法 多施設共同無作為化試験において,重症 AKI(Kidney Disease:Improving Global Outcomes [KDIGO] 分類ステージ 3 [1~3 のステージで,高いほど重症であることを示す])の患者で,人工換気,カテコラミン注入,またはそれらの両方を必要とし,腎不全に直接関連する,生命を脅かす可能性のある合併症がない例を,腎代替療法を早期に導入する戦略群と,待期的に導入する戦略群に割り付けた.早期戦略群では,無作為化後ただちに腎代替療法を導入した.待期戦略群では,重度の高カリウム血症,代謝性アシドーシス,肺水腫,血中尿素窒素値 112 mg/dL 超,無作為化後 72 時間超持続する乏尿のうち,1 つ以上が認められた場合に腎代替療法を導入した.主要評価項目は 60 日の時点での全生存とした. 結 果 620 例を無作為化した.60 日の時点での Kaplan–Meier 推定による死亡率に,早期戦略群と待期戦略群とのあいだで有意差は認められず,死亡は,早期戦略群では 311 例中 150 例(48.5%,95%信頼区間 [CI] 42.6~53.8),待期戦略群では 308 例中 153 例(49.7%,95% CI 43.8~55.0)に発生した(P=0.79).待期戦略群の 151 例(49%)は腎代替療法を受けなかった.カテーテル関連血流感染の発生率は,早期戦略群のほうが待期戦略群よりも高かった(10% 対 5%,P=0.03).腎機能改善の指標である利尿は,待期戦略群でより早期に認められた(P<0.001). 結 論 重症 AKI を呈する急性重症患者を対象とした試験において,腎代替療法を早期に導入する戦略と待期的に導入する戦略とのあいだで,死亡率に有意差は認められなかった.待期戦略では,相当数の患者で腎代替療法の必要性が回避された.(フランス保健省から研究助成を受けた.ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT01932190)る。 1 その試験は焦点が明確な課題設定がなされたか? — 研究対象者:ICUに入室した18歳以上の患者で以下のものを満たすもの ・ 虚血や薬剤等の急性尿細管壊死で腎障害をきたしている ・ 人工呼吸器を使用している ・ epinephrineやnorepinephrineを使用しているもの ・ ランダム化前にKDIGO stage 3 と診断されているもの 除外基準は… ・ BUN 112 mg/dl以上, ・ K 6 mEq/l以上、 ・ pH 7.15以下 (代謝性アシドーシスのみ、混合性アシドーシス含む) ・ 酸素95%以上維持するために酸素が5L/min必要な状態. ・ 人工呼吸器と利尿剤を使用しているにも関わらずFiO2 50%以上必要な状態.
3分の2は敗血症性ショックの患者ですね。
− 検討対象となった介入(治療) 早期戦略群はAKI stage3が分かってから6時間以内にランダム化で割当られ次第、腎代替療法を導入 待期戦略群では,先述の基準(重度の高カリウム血症,代謝性アシドーシス,肺水腫,血中尿素窒素値 112 mg/dL 超)があるか,無作為化後 72 時間超持続する乏尿のうち,1 つ以上が認められた場合に腎代替療法を導入 − 検討された転帰(評価基準) プライマリエンドポイントは60日後の全生存率 セカンダリは腎代替療法、カテ、人工呼吸器、血管作動薬の使用日数 2. その試験は設定された課題に答えるための研究方法がとられていたか? 多施設共同無作為化試験 3. 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか? コンピューターにより1:1で割当。 施設ごとに層別化 4 研究対象者(患者)、現場担当者(医者など)、研究解析者は割付内容を目隠しされていたか? 目隠しされていない 5 研究にエントリーした研究対象者全員が、研究結果において適切に評価されたか? 早期戦略群で1例データ使用拒否の方がいましたが、それ以外は解析。 (サプリメントに書いてありました。) 7. その研究の対象患者数は、偶然の影響を小さく留めるのに、十分な数であったか? 90% power、両側α5%、生存期間RR 0.65として546例のサンプルサイズと計算 【結果は何か ?】 8a 結果はどのように示されたか ? 60日群の時点での死亡率は早期透析群と待機透析群で有意差は出ていない結果となっています。(早期群の死亡率150 待機群の死亡率153) またカテーテル関連感染症は早期群の方で増えています。
これが、生存率の違い。早期に腎代替療法しても全く変わらない。そして、粘った群はかなりの割合で腎代替療法を回避できる。
6 研究対象となった介入以外は、両方のグループで同じように治療が行われたか? K・アシドーシス・水分コントロールに対する治療は待機戦略群で多く必要となる。これは当たり前だが、1/3でしか利尿薬投与されていないことに驚き。
コメント:ドイツUniversity Hospital MunsterのZarbockらによるELAIN試験は、KDIGOステージ2でNGAL >150 ng/mLのAKI患者に、8時間以内(早期)またはステージ3から12時間以内(晩期)の腎代替療法(RRT)開始を割り付ける単施設RCT(n=231)。 RRT開始基準に達するまでの時間は早期群6.0時間・晩期群25.5時間であり、90日死亡率は39.3%・54.7%と早期群で有意に低下(HR 0.66)。腎機能の回復(OR 0.55)やRRT期間(HR:0.69)・入院期間(0.34)も早期群で優れた結果を示している。
今回のAKIKI試験とは対照的に、ELAIN試験 では早期RRTにより死亡率は大きく低下している。両試験は登録基準(AKIKIはステージ3)・患者の構成(ELAINは多くが外科系で半数は心術後)・晩期群でのRRT回避率(ELAINは9%)などで違いがある。NAGL高値という条件付きでもある。
敗血症で体液量やKのコントロールが問題とならない場合、短期間の乏尿やCrの上昇のみでRRTを導入すべきではなく、敗血症の一般的なマネージメントを優先させるべきである。
一方、術後・外傷患者では早期RRTが有用な可能性はあり、特にRRTを最終的に必要とする患者ではむやみに導入を遅らせるべきではない。