オーストラリアで40% DEETを見つけました。日本では販売されない濃度です。
2014年はデング熱の国内感染が約70年ぶりに発生し、2016年はリオデジャネイロオリンピックの開催とも相まって、 例年にも増してジカ熱の国内感染が心配されています。忌避効果の高い有効成分であるディートの濃度は医薬品では12%、防除用医薬部外品では10%以下が承認されていましたが、十分な効果が期待できるように、最近、高濃度のディート30%(他にイカリジン15%)の承認審査を迅速化する通知がだされました。 そこで今話題のDEET(ディート:N,N-diethyl-m-toluamide)に関して少しまとめます。 平成17年8月24日の厚生労働省からの通達「ディートを含有する医薬品及び医薬部外品に関する安全対策について」では ・ ディートを含有する医薬品等は、我が国において多くの人が40年以上使用してきているにもかかわらず、現在まで薬事法に基づく副作用報告はない。 ・ 米国、カナダ、英国などにおいて、販売停止等の措置を講じている国はない。 ・ デューク大学の研究グループが行ったラット皮膚塗布試験に関する報告については、関係する他の報告に比べ低用量でディートの神経系への影響が認められているが、試験方法等の不備が見られるため、現時点では評価は困難である。 などが記載されていました。 それに関して少し補足。 ディートのほうがイカリジンよりも効果は高い。 Travel Med Infect Dis. 2013 Nov-Dec;11(6):374-411. ディートの濃度は10-35%(小児は10-30%)が適切で、50%以上は皮膚吸収が増えるため避けるべきとされています。小児(生後2か月以降)では唇と手を避けること、妊婦は第1三半期は避けることとされています。 Am Fam Physician. 2013 Dec 15;88(12):841-7. また、ディート20%は忌避剤のゴールドスタンダードとなっている濃度です。 WHO: Guidelines for Efficacy Testing of Mosquito Repellents for Human Skin. Geneva, Switzerland: Control of Neglected Tropical Diseases and WHO Pesticide Evaluation Scheme; 2009.. この濃度でやぶ蚊(Aedes)に対して10時間の予防効果が期待できるそうです。やぶ蚊でも日本のヒトスジシマカは忌避しやすいですがデング熱を媒介するネッタイシマカは忌避しにくい。マラリアを媒介するハマダラカ(Anopheles)は4-10時間の忌避時間のようです。
Travel Med Infect Dis. 2013 Nov-Dec;11(6):374-411. ・DEETは胎盤血からも検出されるが胎児への影響は報告されていない。 ・1-8歳で脳症、てんかん、死亡の報告があるが、毎年200万人が使用しているにも関わらず1957年から14症例のみ。 ・動物実験で有害性(体重減少とオスで腎障害)が生じる域値の10%でヒトに害がでると考え、さらに安全域とって1%という域値を設定すると、DEET 40%を3.7g使用すると域値を超える(17歳以下では25%でも超える)。 ・2010 EU directiveでは8.2mg/kg/日までの使用量≒3.3gの15% DEETを提案。 ・しかし両腕に塗るだけで15% DEETで855mg(14mg/㎏)、40%で2280mg(38mg/㎏)となり、2010 EU directiveの基準を超えるので、いずれのの濃度でも繰り返しは塗れない。 ・リスク・ビネフィットで決めてね、という歯切れの悪い結論。 Parasit Vectors. 2014 Jun 3;7:173 やぶ蚊に対して25%以上のDEETにはさらなる予防効果はないともされます このReviewから抜粋して紹介すると、一つの報告では 4.75% DEET 88分 6.65% DEET 112分 20% DEET 234分 23.8% DEET 301分 という濃度依存性の予防効果持続期間がありましたが、もう一つの報告では7時間後の予防効果を比べたところ、20% DEETで72.1%、35% DEETで75.4%とほぼ同等でした。 Travel Med Infect Dis. 2013 Nov-Dec;11(6):374-411. これらの事からは、安全性を十分に確保しながら忌避剤だけで蚊を避けることは不可能である。 できるだけ肌の露出を避け、必要な部位にだけ20%程度のものを繰り返し使用するのが安全、ということでしょうか。 現在、日本で各社が30% DEETを販売しようとしています。 長袖を着て、露出部位が少ないなら30%DEETでも良いでしょうし、衣服につけるならそれも30%DEETでよいでしょうが、夏の熱い時期に四肢に使用することを考えると30%DEETは少し抵抗があります。 確かに、20%DEETと30%DEETが店頭に並んでいたら、一般人からは20%DEETの人気は何となく無さそうではありますが、デング・ジカ熱・マラリアの流行のない日本国内に限って言えば、20%DEETのほうが必要性が高いと思うのは私だけでしょうか?