映画などでは吸血鬼は若い女性を狙うというイメージがある。伝説としてもともと語りづがれた吸血鬼に若い女性を好むという記述は無いようで、若い女性を狙うのは連続殺人犯になぞられたのか、視聴者に恐怖を感じさせやすいための脚本家の戦略なのだろうか。
映画に大きな影響を与えた人物として、 バートリ・エルジェーベトというモデルがいる。ハンガリー王国の貴族の夫人で、「血の伯爵夫人」という異名を持つ彼女は、粗相をした侍女を折檻したところ、その血が手の甲にかかり、血をふき取った後の肌が非常に美しくなったように思えた。そのことがあってから、若い処女の血液を求め、侍女を始め近隣の領民の娘を片っ端からさらっては生き血を搾り取り、血液がまだ温かいうちに浴槽に満たしてその中に身を浸す、という残虐極まりない行為を繰り返すようになった。その刑具として「鉄の処女(下写真)」を作らせ、用いたと言われている。1611年に裁判がされるまで、本人の記憶では650人、裁判による正式な認定では80人の被害者の数に及ぶ。この人物の影響が若い女性を狙うイメージを決定づけたのかも知れない。
科学的には若いラットの血漿を年老いたラットに注入すると、神経機能が”若返る”ことも報告されており(Nature. 2011 Aug 31;477(7362):90-4.)、ドラキュラが若い女性を狙うのには不老不死のためとも考えられる。
前置きが長くなりましたが、今回若年者や女性からの輸血を行うと、予後が悪いという報告がされていたので、紹介します。これが本当ならば映画の設定も改めるべきで、ドラキュラはオジサンばかりを狙うという映画になるのかも知れません。
JAMA Intern Med. 2016 Jul 11. doi: 10.1001/jamainternmed.2016.3324. [Epub ahead of print]
Association of Blood Donor Age and Sex With Recipient Survival After Red Blood Cell Transfusion.
PMID: 27398639
30,503人のレシピエント、80,755人のドナー、187,960単位の 赤血球濃厚液輸血に関して縦断コホート研究を行いました。結果だけお示しすると、若年者からの輸血ほど生存率が低く、また女性からの輸血でも生存率が低かったです。
女性から6単位の輸血を受けた場合の1年死亡率(36.4%)は、男性の場合(27.1%)よりも高く、NNTは11でした。
この論文の一番の弱点は生物学的に理由が十分に説明できないことです。著者らは”Healthy donor phenomenon”を理由の一つとして挙げています。これは、中年で献血できる場合は健康であることが多いが、若年者ではまだ見つかっていない内科的疾患を有している人が献血する可能性があるというものです。これだけで、そんな説明可能でしょうか? ちょっと苦しいでしょうね。それ以外に何らかの交絡因子があるのではないでしょうか。
女性からの献血の場合、FFPであればTRALIの発症率が高いため、女性由来のFFP製剤は使われません。同様の理由で女性からの赤血球輸血でもわずからな血漿が悪影響をあたえる可能性は否定できません(が、可能性は低いでしょう)。また、女性の場合アドレナリンに晒されたときに、アセチルコリンエステラーゼの活性が落ちることが示されており、酸素結合能が低下するらしいです。これが影響する可能性は確かにあるかも知れません。
今のところ、追試験を待つというところですが、献血不足が問題となっていますので、中年男性の方々の献血協力に拍車がかかる、とよいのですが。