そういえば今晩はドクターG放映だった。 当直だったから気づいたら放送終わっていました。
もう内容を大分忘れてしまいましたが、カットされた部分が色々あったので、以前メモ書きしていた内容を紹介します。
今回も誰もが知っている病気を取り上げました。 いきなりネタバレですが、糖尿病ケトアシドーシスの症例です。
症例を難しくして研修医をイジメるつもりは毛頭ないですので、前回は膿胸、今回はDKAと誰もが知っている病名を選んでいます。 (もちろん知っておくべきちょっと変わった病気というのも魅力的ではありますが)
では研修医の先生に何を伝えたかったか? それは診察のちょっとしたコツです。
まず、待合室からの情報も時として診断に有用なこと。 重症感を感じて先に入室させる場合もありますし、 パーキンソン病は振戦、歩行様式で診察室に入るまでに診断されることもあります。 また心因性疾患の大きなヒントは待合室の状態で分かります。 心因性疾患は待合室と診察室での所見が乖離していることがあります。立ち上がる、傘をとるなどの何気ない動作をチェックしてください。 そして、過剰な表現も心因性疾患の診断に重要です。ため息、慢性疾患なのに横になりたがる、などは器質的疾患としては違和感がありますので、それだけで心理社会背景を確認する必要があります。
次に鑑別疾患の絞り方。 VINDICATE-Pをよくカンファレンスで見かけますが、実臨床では臓器別に考えるほうが分かりやすいと思います。 そして、臓器別に分類できない病態というのは、それだけで疾患を絞ることになるのです。 今回の場合ならば、嘔吐する疾患なのに、頭蓋内、内耳、咽喉頭刺激、心血管、消化管、腹腔内臓器といった臓器特異的所見がないので、内分泌代謝疾患を疑うきっかけになります。 なお、泌尿生殖器で嘔吐する場合、痛いことが多いと言いました(カットされていたかも)。 確かに尿管結石で嘔吐する場合には激しい疼痛を伴っていますが、腎盂腎炎の場合は疼痛がなく嘔吐することはよくあります。この事は高齢者ではよくあることですので知っておく必要があります(胆道感染・敗血症で無痛性嘔吐の事もありますが、頻度は圧倒的に腎盂腎炎が多いと思います)。 なお、実は初期研修医は初めの段階から、内分泌疾患も考えた方がよい、と発言していました。 残念ながら進行上の都合で、その部分は放映されていませんが、素晴らしい臨床センスと思います。
あまり教科書には記載されていない(と思う)が、知っておくと便利と思う病歴の取り方について。
多尿の確認 トイレに何度も行くんですと言われたら、多尿と頻尿は鑑別が全く違うので、尿の回数を聞くだけではなく、1回1回しっかりとコップ1杯以上の尿がでているのか確認する。 多尿を知りたかったら尿の回数を聞くのでは不十分。尿の回数を覚えていない人も多い。だから夜間尿の回数を聞く。夜トイレに起きた回数なら覚えている人が多い。同じようなことは前立腺肥大症のスコアリングIPSSでも言えます。尿線がたまに途切れるのか、しばしば途切れるのかなどは非常に曖昧な基準であり使いにくい。それよりも夜間尿を聞いて、1回=軽症、2回=中等症、3回=重症のほうが再現性があり、スクリーニング病歴としては有用。
体重の確認の仕方 特に男性は体重測っていない人が多い。 服のサイズが変わっているかは女性では使えるが、男性はそれも無頓着な人が多いものの、男性は腹位が変わりやすいのでベルトの穴は使えることが多い。 ベルト一穴で1インチ。腹囲1㎝の変化≒体重1㎏の変化と覚えます。 他に、昔の写真も重要で、いわゆる運転免許書生検(Wallet biopsy)と言われます。 また久しぶりに会った人からの評価も確認します。アハ現象のように徐々に変化すると人は気づけないものですので(Change blindnessともいう)、家族の意見は時として参考になりません。お盆とお正月にしか会わない人のほうが、痩せだした時期まで言い当てるものです。
身体所見について
Kussmaul呼吸
必ずしも頻呼吸ではないが、深い呼吸であり、一緒に呼吸すると分かる。 呼吸数で判断しているようではダメ。 これはちゃんとしたエビデンスはないと思いますが(今後動画撮影して解析することを考えています)、 Kussmaul呼吸の人は吸気時間が長い呼吸をします。 イメージとしては我々が吸って、吐いて、休んでを1秒づつ行って20回/分の呼吸をしているとしたら、 Kussmaul呼吸では1.5秒吸って、1.5秒吐いています。 自分の経験ではそうですし、Youtubeの動画もそうでした。
イメージ>正常呼吸
イメージ>Kussmaul呼吸
ケトン匂い ケトン匂でDKAを診断したことは正直、ありません。 でも、面白いのでスタジオでは再現してもらいました。 ケトンで揮発性の物質はアセトンです。アセトンとは除光液に使われているもので、除光液の極々薄い香りです。 スタジオではアセトンを薄めてもらいました。 実際にはDKAの人は口臭などで分かりにくいことが多いとは思いますが、参加していた研修医は(全員だったかな?)経験していて驚きました。
色素沈着とアクロコルドン
一般受けしないという理由でカットされていたかも知れません。 肥満で耐糖能異常があると高インスリン血症になります。 インスリン様成長因子(IGF)という言葉があるように高インスリン血症があると、色々な組織が増殖します。 糖尿病患者で大腸ポリープ、大腸癌が多いこともIGFと関連が示されていますし、末端肥大症では糖尿病や大腸癌などが増加する一方で、小人症では糖尿病や癌の発症が少ないことも分かっています。
同様の理由で高インスリン血症があると、擦れる部位に皮膚肥厚が起こりやすいです。その部位ではメラノサイトも増殖して黒くなります。 これが、糖尿病患者の腋窩や頸部に認める良性黒色表皮腫です(あるいは肥満患者の仮生黒色表皮腫も同様)。 同じ内分泌疾患である原発性副腎不全の色素沈着では皮膚肥厚はしないのでごわごわしていませんし、原発性副腎不全の場合はACTHを産生するときに一緒にメラノサイト刺激ホルモン(MSH)が産生される事によるので、間擦部位だけではなく生理的色素沈着部位(乳頭や歯肉・手掌皺)や露光部位にも色素沈着する違いがあります。
さらに高インスリン血症ではacrochordon(皮膚のタグみたいの)も起こりやすいです。 VTRでは頸部のacrochordon+色素沈着でそれだけで糖尿病ちゃうの? と思わせることを狙って作ろうとしました(がうまく質感を再現できなかった)。
≫画像はGoogleイメージより本物の写真
こんなことを考えながら症例を選びました。
正直言うと実際の症例の色素沈着とケトン匂は微妙だったんですけどね・・・。
この症例一つのために何人分ものカルテをすべて見直して、私自身も大変勉強になりましたが、今年度は色々と忙しくて、次のシリーズ出演の話も頂きましたが、お断りしてしまいました・・・。