今回は古い論文ですがBell麻痺患者が続いたので重要論文を読み直しました。 Lancet Neurol. 2008 Nov;7(11):993-1000. Prednisolone and valaciclovir in Bell's palsy: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial.
背景
ベル麻痺においてのステロイドや抗ウイルス治療のこれまでの治験では検定力不足もしくは経過観察期間が十分ではなかった。今回の研究では多数の患者におけるプレドニンとバラシクロビルの短期間・長期間の顔面神経麻痺の回復への効果を比較することが目的である。
Methods
この無作為二重盲検(+解析者も盲検)、プラセボコントロール、多施設試験では2001年5月から2006年9月までの間に急性・片側の末梢性顔面麻痺を訴えて直接もしくは紹介により救急外来・一般外来を受診した18歳から75歳の患者を対象とした。患者は無作為に置換ブロック法を用いて(8つのブロック)次の4群に割り付けられた:プラセボとプラセボの群、60mgのPSLを5日間飲みその後1日10mgずつ減量する(合計10日間)+プラセボの群、1000mgのバラシクロビルを7日間1日3回飲む+プラセボの群、60mgのPSLを5日間飲みその後1日10mgずつ減量する(合計10日間) +1000mgのバラシクロビルを7日間1日3回飲む群。12か月経過をフォローした。主要評価項目はSunnybrook法100点で評価される顔面機能完全回復までの時間とした。修正ITT解析とした(一度も内服していない人は除外。それ以外はITT解析している。除外された人は10名だけなのでさほど影響はなさそうか)。
結果
コンピューターで割り付けされた839人のうち829人が修正ITT解析に含まれた。206人がプラセボ+プラセボ、210人がPSL+プラセボ、207人がバラシクロビル+プラセボ、206人がPSL+バラシクロビル群となった。
患者層は若い。平均40歳というのは文献的には違和感ないけど、当院総診では違和感(若い人はネット調べて耳鼻科とかかかる?)。これはステロイド副作用考えるときに重要な違いとなる。
PSLを内服した患者ではしていない患者に比較し有意に回復までの時間が短かった。バラシクロビルの投与は回復期間に影響を与えない。PSL+バラシクロビルが最も良い「傾向」という見方もできるが、途中で交差しているしnの問題とは思えず、額面通り有意「差なし」で良いのでは。
副作用の出現した患者数は群間の有意差はなかった。不眠はステロイドで多いと感じていたが、なぜかバラシクロビル群でのみ認められている。nの問題なのか定義の問題なのか。
解釈
ベル麻痺の患者においてPSLは完全回復までの時間を短くしたがバラシクロビルでは変化は見られなかった。
なお、2012年に追試験があり、プレドニゾロンはベル麻痺の重症度にかかわらず有効で、 Clin Otolaryngol. 2012 Aug;37(4):283-90. バラシクロビルは無効という報告があります。 Bell's palsy - the effect of prednisolone and/or valaciclovir versus placebo in relation to baseline severity in a randomised controlled trial.
また、コクランでも同様な結論となっています。 Cochrane Database Syst Rev. 2015 Nov 9;(11):CD001869.