昔は12分以内に挿管していないと予後不良とされた。
Prehosp Emerg Care. 2004 Oct-Dec;8(4):394-9.
その後、気管内挿管までに5分以内だった10,956例と、5分より長くかかった14,050例の比較•心拍再開のOR=0.96(0.91-1.01)と差はなし、24時間生存のOR=0.94(0.89-0.99)とほとんど変わらないというデータが出た。
Resuscitation. 2010 Feb;81(2):182-6.
近年も、院外CPA 649,359例の解析で救急隊による気管内挿管や器具による気道確保はバッグバルグマスクよりも予後が悪いことが判明した。
多因子で調節しても挿管はROSCのOR=0.64(0.58-0.70)、1か月生存率0.88(0.79-0.98)、生命予後良好0.42(0.34-0.53)と散々な結果であった。
JAMA. 2013 Jan 16;309(3):257-66.
これは日本のデータだったのだが、同様なデータが海外からも発表されたのも記憶に新しい。
31 292例の ALS と1643例のBLS を比較した大規模研究で、院外心停止における救命士によるALSはBLSと比べて90日死亡率、神経学的予後について予後不良と関連していた。
JAMA Intern Med. 2015 Feb;175(2):196-204
前置きが長くなりましたが、これらのデータは院外CPAのデータでした。限られた資源の中では、余計なこと(気管挿管)をせずに、もっとやるべきこと(絶え間ない胸骨圧迫と除細動)に集中しながら、できるだけ早く資源のある医療機関へ搬送することが重要という結論でした。
今回は院内でも同様なことが示されました。
JAMA. 2017 Feb 7;317(5):494-506.
今回の報告も観察研究ですが、挿管までの時間(0-15分)と生存退院率との関係をPropensity score法で調べています。
108,079人、668病院のデータが集まりました。
平均は69歳、42%が女性、22.4%が生存退院しています。
71,615人(66.3%)が15分以内に気管挿管されており、43,314人(60.5%)がマッチし解析されました。
生存率は挿管群で16.3%、対照群で19.4%(RR 0.84(0.81-0.87))
ROSC率は57.8%と59.3%(RR 0.97(0.96-0.99))
神経学的予後良好(CPC 1-2)は10.6%と13.6%(RR 0.78(0.75-0.81)
であり、予後不良と一貫した関連性が示されました。
Subgroup解析でも一貫した結果が示されていますが、特に除細動適応がある場合に挿管が有害であることが示されています。これはICLSでもよく強調されることのように思いますが、Shockableではとにもかくにも除細動! ですよね。
4時間以内に呼吸器症状がある場合は挿管の有害性は示されませんでした。窒息や低酸素血症が疑われれば、原因解除が重要である。つまり5H5T、6H6Tの精神です。 この場合のみは挿管も必要性に応じて早期におこなってもよいのかも知れない。
また、もっとも資源が豊富と思われるICUであっても挿管が予後不良因子であったことからは、人手、技術、機器の問題ではなく、挿管という手技・あるいはその後の呼吸管理そのものが(胸骨圧迫を不適切にするなどを介して)予後を悪くするという可能性を示唆しています 。
とは言っても後ろ向き解析で十分なBias排除は不可能であり、また現実的な管理の面からも、どこかのタイミングで挿管を行う方針に変わりはありません。
あくまで、より大事なことを忘れずに、です。 慌てて挿管はろくな事がありません。