右京医師会在宅医療推進委員会で講演しました。
ポリファーマシーの問題には、まず知識の問題があります。一般人は感冒に対して抗菌薬が効くと半数の人が思っているそうです。もちろんウイルス性上気道炎に抗菌薬が効くなんてことはありません。それよりも5~10人に1人副作用が出現することを覚悟すべきです。こういった医学的知識を啓蒙していく必要が我々医療従事者にはあります。啓蒙活動をすることで満足度や再受診率を増悪させることなく、抗菌薬処方を減らすことができることが示されています。
また不適切な処方には心理学的な側面が大きく関与していることを話しました。「感冒とは思うけど、細菌性感染かもしれないから抗菌薬を処方」症候群などがその例です。抗菌薬を処方し続けた医師は抗菌薬処方なしでは不安にかられてしまいます。抗菌薬を服用して治癒した感冒患者は抗菌薬服用なくして感冒を直すことが怖くなります。こういった囚われを自己ハーディングと言います。しかしいかなる薬剤も 安定剤代わりに処方するべきではなく、そのことは「感冒保険」が世の中に存在しないことからも明らかです。むしろ私ならば念のため処方ではなく、念のための説明を行うことを選びます。
ポリファーマシーの症例として、下記の服薬をしていた症例を取り上げました。
なぜこのような処方となっていたかというと5人の医師が処方に関わったからです。またCOPD(肺気腫)、2型糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、変形性関節症がある高齢者は稀ではありませんが、ガイドラインに従うと以下のような生活を余儀なくされます。これを守ることは現実的に難しいことが多いのはないでしょうか。より現実的な指導・治療を行うためには、かかりつけ医の存在が必須であると思います。
大量の残薬は年間500億円以上の損失とされます。医師が気づかないところ(残薬・アドヒアランス)のチェックや指導の足りないところを多職種にカバーしてもらえばよりよい方向へ向かうのではないかと思います。
もともと1時間半の枠でしたが、講演は1時間だったそうです。直前にそのことを知り早口にしたのですが枠一杯講演してしまいました。大変失礼しました。本当は多職種の方々の意見を聞きながら、よりよい形を一緒に考えていきたかったのです。
会場からは様々な意見がでましたが「ポリファーマシーをどうやって減らすかが問題である。かかりつけ医が一人の場合はまだいいが複数のままの場合はどうすべきか。」と質問が最も回答に困りました。私自身も困っているからです。かかりつけの医師から患者さんを奪う気は毛頭ありませんが、結果としてそうせざるを得ない場合もあり、答えに窮してしまいました。
おそらく、今後もこの取り組みは続いていきます。様々な人の様々な意見を統合し、よりよい形でポリファーマシー専門外来(とはいっても基本入院患者が対象)を発展させていきたいと思います。