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高齢者の自由水喪失の診断特性

「ベッドサイドで行うメタ解析」と称して、人のふんどし(論文)を少しいじって、労力を使わずに、自分の分かりやすやすい形にしてしまおう、という私の趣味を久しぶりに。異質性が問題となる項目も多数ありましたが、いつものごとく、そこはあえてスルーしながら解析します。

高齢者において脱水の臨床診断は非常に重要です。

状態が悪くなる前に飲水を励行したり、必要に応じて補液を行うことで入院を回避できる可能性があります。

また救急外来においても、例えば意識障害で搬送されてきた場合、脱水を正確に判断できれば救急外来で迅速な補液を行うことで、速やかに状態が改善させ、その後に必要な検査を減らすこともできます。

かなり昔にJAMAに素晴らしいReviewが掲載されていましたが、同じようなテーマがCochraneでも取り上げられていました。

高齢者の自由水喪失に対する臨床所見、検査所見の診断特性

Cochrane Database Syst Rev. 2015 Apr 30;(4):CD009647

血清/血漿浸透圧>295mOsm/kgが定義とされていることに注意してください。

尤度比がないと分かりにくいのでMetaDiscを使って元データから尤度比も計算しなおしました。なお、MetaDiscの性質上、2×2表としたと時に各行もしくは各列の合計が0の項目がある論文は省いています。その上で単一の論文でしか評価されていない項目は割愛します。さらに、症状に関しては中等度や高度な症状というサブグループも診断的に有用性が乏しいという判定でしたので、図表を見やすくするため割愛しています。

まず、病歴。結論だけ言えばすべてあてにならない。

水分摂取量や乏尿は意外なほどあてにならない。疲労感を除くすべての所見が尤度比の95%信頼区間が1をまたぐ=統計学的に有意な意義を持たない。口渇も高張性脱水では高頻度のはずであるが、高齢者ではその限りではないということか。臨床的な感覚としては、経口摂取が十分ならば高張性脱水とはなり得ないので、病歴のとり方や解釈の仕方で判断が大きく変わるため、注意深く病歴を取りましょう、ということでしょう。

身体所見では腋窩乾燥に注目

血管内脱水と言うよりは細胞内脱水が目立つ高張性脱水なので、循環動態への影響より意識障害に影響があるという話もありますが、JAMAのデータでは口腔内の乾燥で見つけて、腋窩乾燥で診断、という結論でした。今回の報告では口腔内乾燥所見は思いのほか感度が低い。ちなみに舌の縦皺は同一項目を評価した複数の論文がないため、解析から外してしまいましたが、これも診断特性は不良でした。診断的価値がある所見は、腋窩乾燥のみでした。

尿所見でも予測困難

血液検査異常が出現するまえに、尿所見が認められることが通常ですが、その反面、尿所見の特異度は高くありません。また高齢者では尿濃縮障害があることから感度も限られます。そしてやはり、自由水喪失がゴールドスタンダードであり、我々が日常診療で用いる「脱水」とは異なることに注意が必要です。

生体電気インピーダンス法(BioelectricalImpedanceAnalysis:BIA)も期待外れ

ここまでくると、すべての所見のあまりの診断特性の低さに笑うしかない。

 注意点です。今回の論文はあくまで浸透圧が高いことがゴールドスタンダードです。だから例えば、経口摂取不良で口腔内乾燥あり循環動態が不安定な場合は、「脱水」は絶対あると思いますが、浸透圧が高いかどうかは分からない、という報告です。

 救急外来に限って話をすれば、病歴と身体所見で補液をすべきかは分かることが多いと思います。急速補液をすべきかどうかは臨床的判断が大事と思います。しかし血清浸透圧(≒Na)やKの値を予測することは困難であるため、大量補液をする場合には補液の組成を決定するために血液検査をしましょう、という意味ぐらいに捉えれば

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