皆様。委員の長野です。今日は毎月1回 音羽病院で開催されている京都GIM conferenceで当科 後期研修医の山下先生にシベンゾリン中毒の症例を発表してもらいました。
発表した症例は尿路感染 septic shockと思いきやその裏にシベンゾリンなどの薬の副作用が隠れており、薬剤の影響を吟味する重要性を痛感した症例でした。
シベンゾリン(シベノール®)はclass Ⅰa群の抗不整脈薬で上室性、心室性の不整脈に使用されます。日本でよく使われているようで、心房細動に関するrhysm controlとrate controlを比較したRCTであるAFFIRM試験(N Engl J Med 2002; 347: 1825-33)では使われているのはアミオダロン、ソタコールが多くシベノールは使用薬剤に入っていない一方で、日本の同様のJ-RHYTHM study(Circ J 2009; 73: 242 – 248)をみるとピルジカイニドについて2番目に使用されています。
Naチャネル遮断作用が主ですが、KチャネルやCaチャネル遮断作用も持ちます。このKチャネル遮断作用膵β細胞のATP感受性Kチャネルに結合することで低血糖を引き起こします(Eur J Pharmacol 1992;22:214(2-3):159-163)。これはSU剤と同じ機序です。また視床下部腹内側核のATP感受性K+チャネルも抑制し、低血糖時のグルカゴン分泌を抑制します。同じⅠa群のジソピラミドも同様の作用機序で低血糖を起こすようです。
また本症例ではトラムセット®も入っており、こちらも低血糖のリスクがあると言われています(JAMA Intern Med. 2015 Feb;175(2):186-93)。
シベンゾリンにはムスカリン受容体遮断による抗コリン作用もあります。抗コリン作用は尿閉を引き起こし、本症例では尿路感染の原因となった可能性がありました。当院に異動してから抗コリン作用には困らされることが多く、また抗コリン作用を持つ薬がこれほどに多いのか!(J R Soc Med. 2000 Sep; 93(9): 457–462.)ということを実感しています。
薬はリスクとはよくいいますが、自分の使用している薬が患者さんの害になっては意味がありません。ポリファーマシーも昨今話題に挙がりやすいですが、薬剤の副作用についても深めていきたいと思った1例でした。
山下先生お疲れ様でした!