とても勉強になりました。午後は別打ち合わせがあるのですぐに失礼したため、どなたが受賞されたかは知りませんが、いずれの発表も面白かったです。
どうしても時間制限が厳しいので、気になる事だらけでしたが、あまり質問するのもいじめているみたいになっちゃうので、心に思いながら発言しなかったことを書き留めておきます。
11.直腸calcifying fibrous tumorの1例
直腸のCFTは非常にまれである。この症例ではEUSでも第4層に連続する腫瘤で、GISTと鑑別が困難であり、FNAが望ましいとの趣旨。
腸管のcalcifying fibrous tumorは確かに稀ですが、臨床的にはいずれにせよ外科手術なので術前診断にさほど意義はないかも知れません。会場からGISTは石灰化認めないというような発言がありましたが、GISTでも石灰化はさほど稀ではないと思います。ただし大きなGISTが比較的粗大だったり辺縁に線状に石灰化するのが典型的だと思います。私は放射線科ではないので詳しくはありませんが、このCFTでは腫瘤が小さい段階で微細な石灰化を認め、甲状腺乳糖腺癌や大腸癌肝転移でみられるようなイメージとにていると思いました。知っていれば画像から鑑別にあげることはできそうです。
12.馬尾神経浸潤の診断に難渋した肺腺癌の1例
肺腺癌指摘されている患者の月単位で進行する両下肢筋力低下で膀胱直腸障害が出現し、最終的に馬尾神経浸潤と診断。これは髄膜播種という言葉の方が良いでしょうね。
うーん。典型例ですね。顔面神経麻痺、難聴もあり髄膜播種以外、鑑別に上がらないと思いましたが、それらが無くても、月単位で進行する両下肢神経障害+膀胱直腸障害ならば、迷わず髄液検査しますよね。これは教科書的症例として認識しました。
13.IgG4関連疾患に合併した悪性リンパ腫の1例
生検でIgG4関連疾患と確定していたが、数年して再発。今度は悪性リンパ腫だった。
これは合併と言うより最初のMLの診断が難しくIgG4RDと勘違いした症例かなと思って聞いていたら、初期に見られた腎病変・膵病変に再発なく、LDH、sIL-2R高値も併せ、縦隔リンパ節生検、腸間膜生検を行いしっかりと診断していた素晴らしい症例。両者の合併は多いものの、IgG4RDと組織学的に確定診断している症例でのちにMLを合併するのは5例だけだったそうで、2~14年後にMLを発症しています。初期病変とは異なる部位に再燃の場合は疑いを持ちましょう。そういえば、放射線学的にはIgG4RDと思われる肺病変だったけど免疫抑制状態下でのクリプトコッカスだったこともありました。この時も初期病変と再燃病変の違いがキーワードでした。膠原病の診断においてこの考えは役立つと思います(否定的な報告もありますが)。
14.異所性受容体発現が疑われた原発性大結節性副腎皮質過形成(PMAH)の1例 薬理学的なアプローチが有用かも知れないという結語だが、バプタン(あるいはβ拮抗薬、ARBなど)試してなかったのが残念。64歳男性で骨粗鬆症となっているのでSubclinicalとは判断されていましたが、治療介入の意義はありそうです。
15.Direct Oral Anticoagulants (DOAC)内服患者における大腸出血の検討
DOACでは高齢者のAngiodysplasiaによる出血が多いという報告(Heyde症候群の可能性は5例中1例のみで他は除外されている)。DOAC服用していない場合は憩室出血、虚血性腸炎などでAngiodysplasiaは1例もなかった。
発表では触れていませんでしたが、ダビガトラン内服中にはAngiodysplasiaによる下部消化管出血が多いという論文がすでにあります。ダビガトランはBioavailabilityが低いためにもともと消化管出血が特に多いことが問題視されているので驚きはありません。ところが今回はエドキサバンやリバーロキサバンでの報告で私の知る限りいままで論文化されていないと思いますので、ちゃんと論文としても良いかと思いました(論文あったらすいません)。
16.結核性腹膜炎の診断に難渋した腹水を伴う慢性骨髄性白血病の1例
メモ書きが追い付かず臨床経過を聞き逃しましたが、ダサチニブ投与後の腹水が問題でした。
ADAが83であり、結核の診断がされた症例。ADAは偉大。胸水や腹水でADAが高ければ結核、ML、膿胸、リウマチ性胸膜炎といったところを考える。CMLでADAが高くなることはないと思いますから、診断を疑うまではさほど難しくないのではないかと思いました
ただし、ダサチニブ投与でリンパ球優位の浸出性胸水が出現することが知られており、腹水の鑑別としてこれはあげてもよいと思ったのと、免疫抑制がさほど疑われる状況ではなかったのなら免疫再構築のような状態だった可能性も考えられるな、とねちねち考えていました。時間なかったので質問はしていません。
17.コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)によりToxic shock syndrome(TSS)を来たした1例
TCR Vβ Repertoire分布の解析は見た事ないので勉強になりました。ただ、このパターンのOligoclonalなCD8+活性化は既知のスーパー抗原では報告がないから、今回はスーパー抗原ではないという結論は良く分かりませんでした。菌血症でもOligoclonalに通常なるならばよいですが、1~数種類だけのVβ活性化が認められるのはスーパー抗原の特徴なのだから、組み合わせが違っても未知のスーパー抗原かも知れません。スーパー抗原はマイナーなものがいくつもあるので、CNSならばまだ知られていないのがあってもおかしくないかと。それをどのような根拠で除外したのかを知りたかったのですが、質問の仕方が悪かったため結論が得られませんでした。
18.当院における自己免疫性胃炎の現状
自己免疫性胃炎の診断基準をどうするか(例えば抗胃壁細胞抗体は特異度が低いため、これで定義するのは難しい)、Inclusion criteriaをどうするか(主治医が疑った患者だけをエントリー)、など多くの問題点があるものの、病理診断や尿素呼気試験の問題点を浮き彫りにしていました。かといって内因子抗体まで出すと研究費が一気に跳ね上がりますしね・・。
19.肺炎に横隔膜を跨ぐ広範な膿瘍を合併したMSSA感染症の1例
後腹膜から胸腔が通じる膿瘍は多く報告されているので新たな学びはありませんが、1例1例を大切にし、機序をしっかりと考えている姿勢に共感。後から考えると色々出てきますが、その時はそこまで思いが至らなかった、ということは良くあるので、すべての症例を発表するつもりで診るのがよい、と昔いわれたことを思い出しました。
20.インドネシアからの移住者に発症した結核性縦隔リンパ節炎の2症例
インドネシアはインドについで世界で2番目の結核のリスクのある国ですという教訓です。造影CTをとって縦隔リンパ節のすべてに中央壊死を伴っていたので、結核を第1に考えるなあとは見ていて思いました。疑うのは容易ですが、診断ためには縦隔リンパ節生検を必要とすることが大変だなあと思いました。