1人の医師ができることは限られています。
自分でレントゲン写真をとって、尿沈渣を確認し、調剤も行い、看護をして、リハビリをして、会計の計算して、病院食を作って、トイレ掃除もしているという医師には未だ出会ったことがありません。
医療は多くの職種が一人の患者のために力を出し合います。
もっと広い視点でみれば、医療従事者にも限界があります。特に不安やうつ、といった疾患に関しては医療従事者のマンパワーが全く足りていません。
ジンバブエには精神科医が12人しかいません。一方、人口は1,600万人だそうです。一人の医師が人口100万人以上をカバーしなければなりません。これは臨床心理士の助けがあったとしてもおそらく難しいことでしょう。
そのような国で一般の人々をトレーニングして、公園のベンチで友達と話すようにカウンセリングを行ってもらうという”Friendship Bench intervention”の効果が論文で発表されています。
JAMA. 2016 Dec 27;316(24):2618-2626.
このRCTによると、このカウンセリングによりうつや不安は著明に改善することが示されています。
さて、私は日常診療において社会的役割を十分に感じておらず、やりがいの欠除から要らぬ心配に悩まされている方々を多く診療しています。高齢者の一人暮らしや、若くても職についていない方ではこのような方が多いです。子供が巣立った後の中年にも多いです。このような方々は「することがない」と仰られることも多く、そのような場合はボランティア活動を強く薦めています。人のためにもなり、自分のためにもなり、互助の精神に則った素晴らしい方法であると思うのですが、具体的な提案をしなければ実践されることは少ないため、ここでは京都の制度をいくつか紹介します。
❶ ボランティア活動を具体的に勧めたい場合は、京都福祉ボランティアセンター。月刊誌『ボランティアーズ京都』では若年者から高齢者まで参加できるボランティア活動を紹介してくれています。
❷ 高齢者が趣味を一緒に楽しむ人を探したい場合は、京都市長寿すこやかセンター 高齢者サークル情報 。 卓球やダンス、太極拳などのスポーツ系から囲碁・将棋、カラオケや書道といった文科系まで 多種多様のサークル情報があり、検索が可能です。
インターネットが苦手な方にはpdfで「サークル情報ガイドブック」も準備されており、区ごとにサークル活動がまとめられています。
❸ 話し相手を探したい場合は、同じく京都市長寿すこやかセンター の 高齢者サロン情報。「自分のペースにあわせて気軽に活動できる場所が欲しい」「お茶を飲みながら誰かとゆっくりお話したい」「気が向いた時にだけ参加できる場所があればいいのに・・・」などとお考えの方にピッタリ 。
こちらもpdfが用意されていますが、109ページ(2019/2/6現在)もある大作です。区ごとに活動内容や対象者がまとめられています。市内にこれほどのサロンがあったとは知りませんでした。
❹ 高齢者介護で悩みのある方にお勧めの公的機関。こちらはちょっと趣旨はずれますが、認知症や介護、看取りに関する相談、DVD貸出、無料法律相談など幅広く活動されています。
❺ 死にたいほどの悩みのある人の相談場所。
全国的に「いのちの電話」が有名で1年で34万件以上の電話を受けているそうです。なお、24時間電話相談以外にもインターネット相談も受けて受けつけています。
いのちの電話は7000人のボランティアによって支えられています。京都いのちの電話では20~68歳の方に相談員ボランティアを募集しています。大変なボランティアであるとは思いますが、人を救うというやりがいのあるボランティアであると思います。
京都にはもう一つ「京都府自殺ストップセンター」という別の電話相談先があります。こちらは臨床心理士や精神保健福祉士などが相談にのってくれますが、24時間・365日対応ではありません。一方、おそらく経済的に悩まれている方への配慮と思いますが、LINEで無料通話できるのが素晴らしいです。
「いのちの電話」の相談員はちゃんとした研修をうけておりますので、ジンバブエで行われた研究で行われた「Friendship Bench intervention」と同様の、素晴らしい医療行為であると思います。
また、誰かの話を聞いてあげるだけでも立派な人助けであり、上記の高齢者サークルや高齢者サロンもお互いに有効なメンタルヘルスケアになっていると思います。
医療従事者にはマンパワー的な限界があるため、これらの制度をうまく活用して、助けてもらうことが必要なのではないでしょうか。そのためには我々医療従事者も助けてくれる制度をよく知っておかなければなりません。