top of page
U

亀井道場で講演しました

今年も亀井道場に呼んでいただけました。

実際に診察させて頂き、自分なりの思考過程を説明していきました。

生来健康な40歳代の女性 発熱

特に労作などはなかったが旅行に行った当日から節々の痛みが強く動けなくなる。

38度代の発熱、咽頭痛、両下肢・背部に散在する掻痒感が顕著な膨隆する小紅斑も出現。

皮疹は24時間以内に消退出現を繰り返す。

2日ほどで両膝、足関節、手指PIPに関節腫張が出現。

悪寒戦慄や食欲低下はない。

発症から2週間ほどした外来初診時も37度代の発熱は継続していたが徐々に軽快。咽頭痛もこの頃まで継続。

皮疹と関節炎は2ヶ月ほど遷延した。(ただし何らかの治療を受けているので自然軽快かどうかは私には分からない)

既往歴、家族歴、内服歴なし。流産歴2回。10代の子供2人。

発症時は夏に温泉旅行中だったが、先行して虫刺されする機会なく、病人との接触なし。

講義のため脱線しながら病歴を取りました。多少、本番と言っている内容は違うと思いますが、覚えていることをいくつか書いておきます。

まず、流産歴について。

繰り返す流産歴があれば抗リン脂質抗体症候群(±SLE)を考えます。

しかし、今回は流産―出産—流産ー出産の順番でした。また、胎児心拍は確認できていませんでしたので、有意な情報とみなしませんでした。

抗リン脂質抗体症候群の診断基準では

①妊娠10週以降で、他に原因のない正常形態胎児の死亡、 ②(i)子癇、重症の妊娠高血圧腎症(子癇前症)、若しくは  (ii)胎盤機能不全による妊娠34週以前の正常形態胎児の早産、又は ③3回以上つづけての、妊娠10週以前の流産(ただし、母体の解剖学的異常、内分泌学的異常、父母の染色体異常を除く。)EndFragment

とされています。妊娠5週から胎児心拍は確認できますので、それが確認できていなかったことから妊娠10週未満であった可能性が高く、一般的に妊娠の10-15%が流産となることを考えると、有意な所見とはいえないです。

この、妊娠10週って12週と間違えやすいですね。12週未満での流産は早期流産と呼びコモンですが、それ以降は後期流産と呼び死産届が必要となる基準です。

なお、妊娠反応が陽性となっても超音波検査で確認できない場合は生化学的妊娠(biochemical pregnancy)と呼び、流産回数に含めないことになっていますが、今回は胎嚢は確認されていたそうです。

2回連続する反復流産、3回連続となると習慣流産という用語が用いられることもあります。反復、習慣というのは連続を意図した用語ですので、連続していない時はあまり気にしなくてよいということですね。

なお、流産とは妊娠22週未満で、22週以降は死産と呼ぶように定められています(これは時代や医療水準によっても異なり28週を基準にしている時代・国もあります)。これは医療が進歩しても22週未満で母体から出た場合、長期生存が不可能であるためです。ですから妊娠満22週に達した場合にのみ分娩と呼びます。

今回はG4P2ですね。

なお、双子はどうするか。実は多胎妊娠の場合でも妊娠は1回、分娩も1回と扱う決まりです。

RASH & FEVER

皮疹によりますが、見逃してはいけない皮疹の鑑別。

紅潮している場合、Nikolsky現象を陽性ならばTENかSSSS。陰性ならばTSS、猩紅熱、川崎病。

Palpable purpura→血管炎と重症細菌感染(感染性心内膜炎、髄膜炎菌菌血症、脾臓摘出後重症感染症)の2つ

小紅斑はウイルスでは体幹優位という原則がある。あくまで原則だけど。

発熱伴う慢性蕁麻疹

写真からは皮疹は紅斑のように見えました。皮疹には痛みはなく、かゆみがとても強かったそうです。蕁麻疹様血管炎というのもありますが、ちょっと違うかなと思います。発熱伴う慢性蕁麻疹ということからSchnitzler症候群も考えましたが、咽頭痛があり、かゆみが顕著ということ、関節炎が明確であったことが典型的ではない? 可能性はさほど高くはなく、学生さんメインの会だったのでちょっとマニアックなこの病名は紹介しませんでした。

今回病歴からの私の診断は成人スティル病(AOSD)。

・若年女性で高熱の割に元気

・咽頭痛は2週間続いているこれは感染症によっておこるものとしては違和感。

・膠原病としては発熱、関節炎、皮疹、咽頭痛からはAOSD、リウマチ熱を考えたが、リウマチ熱の皮疹ではない。症候だけなら自己炎症性疾患の範疇もありえるが、単相性の激烈な経過からは否定的。

・スティル病の皮疹として蕁麻疹様のものは多く報告されている。背部と大腿裏側に多かったとのことであり、写真があった足の皮疹は履物がすれる部位に線状に並んでいるようにも見えた。これらはケブネル現象と考えてもよいのではないか。

身体所見:皮疹以外特記すべき所見なし。(皮疹は病歴とりながら写真をみせてもらってたので追加所見なし)。

検査プラン

・血算・生化学・尿検査

・胸部単純写真

・血液培養

・抗核抗体・RF因子

・フェリチン

・パルボウイルスB19抗体

検査結果

・血算・生化学・尿検査 → WBC13000 好中球優位 軽度肝障害 尿検査は未

 白血球増多、肝障害ありAOSDに矛盾しない。SLEやパルボなら血球減少が多い。肝障害はLDHがより高値なのがAOSDに典型的とされるが、今回はそうではなかった。

・胸部単純写真 → np

・血液培養 → 陰性?

・抗核抗体・RF因子 →陰性。そうでしょうとも。

・フェリチン → 600台。 あれ? 思ったより低い。 1000は欲しかった。

・パルボウイルスB19抗体 → 陽性。会場からの意見もあり検査プランに入れておいてよかった。

パルボの関節炎が発症時から存在したこと、発熱は関節炎のためかも知れないが2週間以上持続したこと、2か月も”パルボによる蕁麻疹”が出現したこと、咽頭痛が2週間も続いていた事が、とても珍しいと思いました。まあ病歴は1年前の記憶なので、咽頭痛は本当は二週間続いてなかったのかも知れないし、咽頭違和感程度だったのかも知れませんが。以後は他院でステロイド導入になったようで全てがパルボなのか分からない部分もありますが、現在は無投薬でお元気にされておられ何よりです。

ところで難病情報センターの成人スティル病の項目には以下の表が載っています。

一方、「内科診断リファレンス」には、成人スティル病の除外項目にわざわざパルボウイルスB19を追加しています。パルボウイルスは様々な症状で発症しうるウイルスです。また最近、神戸でも新潟でも京都でも流行っているようです。近年、未妊婦に対しても抗体価が保険収載されましたので、臨床像がより明らかになることが期待されます。

閲覧数:110回0件のコメント
bottom of page