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「内科診断リファレンス」と「内科診療フローチャート」の比較


2024/4/8発刊

医学書院

1200ページ

酒見 英太 (監修)

上田 剛士 (著)



2024/3/16

シーニュ

1078ページ

髙岸勝繁 (著)

上田剛士 (監修)


両書籍はよく間違われます。

名前も、大きさも、なんとなく似ているからでしょうか。

両書籍とも私が関わっていることが、関係しているのかも知れません。

しかも、同じ時期に改訂版が出たために、混同する人がいるのも無理はありません。

そこで、両者を比べてみました。


 
何が違うの?

両書籍とも総合診療という臨床の現場で生じた疑問を調べ、学び、紡いでいった内容であることは同じです。しかし実際の中身をみるとかなり違います。


ジェネラリストのための内科診断リファレンスは、診断学に特化した書籍となっています。それは、診断が間違っていれば、正しい治療はできないからです。ですから、まずは診断に拘るべきだというコンセプトで作られました。病名が分かればUpToDateを調べれば治療のことはおおよそ分かるというのもありました。作成する上では病歴・身体所見・検査のすべてにエビデンスを求め、いずれかに偏ることなく、医療経済的な視点も加えたうえで、正しい診断方法を追及する姿勢を崩さないことを意識しました。診断に関して困った事であれば、この書籍をみれば全て書いてある、というのが著者の願いであり、「内科診断リファレンス」と名付けられました。


ホスピタリストのための内科診療フローチャートは私が書いている訳ではありませんが、総合診療のすべてを積み込んだ書籍と言えます。総合診療は診断に特化していると誤解されることもありますが、実際にはかなり多くの疾患を実際に治療も行う総合診療医も存在します。著者の高岸先生も私もそういった総合診療を実践していますが、そのような総合診療の診断から治療までの流れが全て書かれている書籍と言えるでしょう。このような内容を反映し、「内科診療フローチャート」という書籍名となったのだと思います。もちろん流れが書かれているだけではなく、エビデンスがびっちり詰まってはいるのですが。


どちらの方が質が高い?

両者とも最高峰と信じています。診断に関しては「内科診断リファレンス」、治療に関しては「内科診療フローチャート」が勝るとは思いますが、全体の質と言われると甲乙つけられるものではないと思います。


どちらのほうが新しいエビデンス?

「内科診断リファレンス」が2024/4/8と、「内科診療フローチャート」の2024/3/16よりも、わずかに新しく発刊されていますが、執筆時期はほぼ同じです。

改訂版でどれほど内容が変化したかについても聞かれる事がありますが、「内科診断リファレンス」は全て生まれ変わったと思ってください。11年と言う月日が経ったのもありますが、718頁が1200頁となり、すべての論文を検索し直しました。つまり最新です。

「内科診療フローチャート」は5年ぶりの改訂ですが、886頁から1078頁とこれもかなり増量されていますし、すべての章で新たな論文が追加されていますので、やはり最新ですね。

2023年の論文をお互い多く引用していますので、やはり甲乙つけがたいと言うことで・・・。


なぜ値段が違うの?

「内科診断リファレンス」は11,000円、「内科診療フローチャート」は8,800円と値段が結構ちがいます。これは何故でしょう? 私も詳しいことは知りませんので、あくまで個人的な感想として。

「内科診断リファレンス」のほうが、内容が多いのは確かです。頁数が多いということですね。そしてQRコードによる外部参照(症例の写真・動画・診断基準など)が非常に多いので、その量も含むとかなりの差になります。2点目は紙質。「内科診療フローチャート」は薄い紙を使っており、コンパクトに仕上がっています。これはメリットですね。ではなぜ「内科診断リファレンス」は薄い紙を使わなかったかというと、視認性に拘ったからです(Amazonでサンプルページ見てくだされば、分かると思います。見やすさは情報入力量に直結するので大切です)。私が直接紙をみて選んだわけではないのですが、見やすいように配色にはこだわったつもりです。その意図をくんで全頁カラー版として頂いたので、どうしても費用がかさみます。そう考えると「内科診断リファレンス」も実は良心的な値段設定ではないかと思っています。


どっちを買うべき?

どっちも買って欲しいです。両者は補完しあうものだからです。


ただ、どちらが先かと言われれば、まずは医学生や初期研修医には「内科診断リファレンス」のほうが良いのではないかと思います。それは「間違った診断で正しい治療はできない」からです。特に診断までのプロセスは研修医の采配に任される部分が大きいので、力の見せ所です。身体所見の画像・動画も多く紹介していますので、初学者から学べるつくりになっています。グラフが豊富で観るだけでわかるように工夫されています。また病名から勉強する方法では学べないことも書かれています。例えば「寝汗の鑑別」などです。だから初期研修医までにはまず「内科診断リファレンス」を先に使って欲しいと思います。極論を言うならば、「研修医として最低限の仕事をするために必要な書籍」が「内科診断リファレンス」であると思うのです。


一方、研修医でローテーションをする時、ただ漫然と過ごすのか、分からないなりに理解しようとするのかでは、研修の質が大きく変わってきます。例えば自分の専門として血液内科を選択することはない研修医が、血液内科の化学療法に対して目を輝かせることがないのは分かっています。しかし担当医となった以上、目の前の患者に対して、なぜそのレジメンなのか、どのぐらい効果が期待できるものなのかを知っておくべきなのは当然のことです。このような状況において、どのような診療の流れであるのかをさっと知り、興味をもったところは最新のエビデンスを参照できるという「内科診療フローチャート」は「研修生活を充実させるための書籍」と言えるのではないかと思います。


一通りの内科的知識を有した総合診療医や一般内科医にとっては、自分が知りないのは何かで選ぶ事になると思います。端的に言えば診断においては「内科診断リファレンス」です。「初診外来でなんでも見ないといけないけど、どうしよう?」という状況や、研修医指導に対しては特に役立つと思います。一方、自分で治療まで完遂しなければならない非専門医にとっては、「内科診療フローチャート」が便利なガイドとして大いに役立つでしょう。



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