丸太本が出版されました。神経解剖学が苦手な研修医/総合診療医はこの一冊で劇的変化するハズです。
もし,この監訳の言葉を眼にしているのが,神経内科専門医ではないが,神経解剖に興味がある/勉強する必要性に迫られている人であったならば,“アタリ”である。
実は本書の監訳の打診を最初にされた時には,依頼をお断りした。神経解剖学の類書は山ほどあり,今更新たな洋書を翻訳する気にはならなかったからである。しかし,その後,本屋に行っていくつかの神経解剖学の書籍を手にとり,家に帰ってから本書の内容と見比べて考えを改めた。本書が日本語に翻訳されれば,多くの人々に役立つものになるに違いないと。
もっと詳しい成書はある。しかし,非専門医にその分厚い成書を紐解くことを強いれば,神経解剖学アレルギーを引き起こしてしまうに違いない。非常に簡潔な書籍もある。しかしそれは直ぐに物足りなくなり本棚の肥やしとなるばかりか,不十分な知識だけでは貴方をピットフォールに陥ることから救ってはくれないだろう。この書籍の魅力の一つは“ちょうどよい”記載量である。
当然,適切な分量だけでは満足できる書籍には仕上がらない。質も重要,いや質こそ重要である。ではどのように質を定めるのであろうか? さまざまな観点があるかもしれないが,本書で優れているのは“臨床に役立つ”かどうかである。
初学者にも分かりやすいように基本ルールから系統的に学んでいく体裁をとってはいるが,臨床に役立つ部分は適切に掘り下げているのが本書の特徴である。例えば「末梢神経障害であると考え整形外科に紹介をしたら脳卒中であった」というのは非常に望ましくない状況である。そのような過ちが起こらないように,末梢神経障害と中枢神経障害の鑑別のために必要な神経解剖学については特に詳細に,どの筋力に注目して評価すべきかなどを具体的に解説している。
本書では入門書では敬遠されがちな腕神経叢と腰仙骨神経叢についての記述も忘れてはいない。これ一冊で末梢神経から大脳皮質まですべてのレベルの障害を学ぶことができる。
一般内科医,救急医,同僚と差を付けたい医学生や理学療法士に十分な内容であるばかりか,駆け出しの神経内科医や整形外科医にも役立つ一冊と言えよう。
本書の監訳にあたって「前言撤回で,これはやはり優れた書籍であり,日本語に翻訳すべきです」という私の言葉に振り回されながらも翻訳の許可申請を再度してくれた株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナルと,用語に一貫性を持たせるため一人で全訳に挑んでくれた丸山医師にこの場を借りて感謝を申し上げたい。
2022年12月吉日
上田剛士
『臨床に役立つ神経解剖のツボ その症状は,こう読み解く!』( 原題:“Case Closed!Neuroanatomy”)は英国のBerger医師らによる著作です。
はじめてこの本を手にした時,おふたりとも臨床現場で働いておられる神経内科医だと思っていたのですが,Webで見つけたインタビュー記事を読むとWarren 先生が医学部を卒業後に神経内科医となり,John先生は心理学を専攻された後に研究に従事されているということがわかりました。
神経系を専門とする著者らによって執筆された本書には「臨床に効くツボ」を押さえた神経解剖学が,豊富なイラストレーションと共に収められています。Part 1では神経系の概観や神経細胞の基礎的な解説から始まり,脳,脊髄,神経根・神経叢,末梢神経といった個々の神経解剖学的構造の解説へとstep by stepで進んでいきます。またPart 1の終わりには,まとめとして局在診断をつけるための型が提示されています。「困難は分割せよ」という言葉の通り,一つ一つの学習項目が適切に押さえられているため,広大な領域を分かりやすく学ぶことが出来る構成となっています。
そしてPart 1で学んだ内容を臨床で役立てることが出来るように,Part 2では多様な神経疾患が症例形式で解説されています。症例は内科外来あるいは救急外来で出会う神経疾患として極めて重要なものが取り上げられています。全体を通して重要なポイントが繰り返し出てくるため,初学者の方や神経解剖学に苦手意識がある方も読み進めていくうちに内容が自然と身についていくこと間違いなしです。
原題の“Case Closed!”には事件解決や一件落着という意味があり,「見た目は子供,頭脳は大人」のフレーズで有名な国民的マンガの英語版タイトルにもなっています。本書が真の病巣を突き止める皆様の助けになれば,この本に携わる機会を得た者として嬉しく思います。
最後になりましたが,サポートして頂いた水野資子氏をはじめとする株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナルの皆様,そして監訳をして頂いた上田先生に深く感謝申し上げます。
2022年12月吉日
丸山 尊
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