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プロゲストーゲン過敏症

「プロゲステロン」は生体内で産生される天然型の内因性黄体ホルモンです。合成によって作製される外因性黄体ホルモンを「プロゲスチン」と呼び、天然型と合成型の総称を「プロゲストーゲン」と呼びます。


プロゲストーゲン過敏症とは内因性または外因性黄体ホルモンに対するアレルギー反応です。

生殖年齢の女性に発症し平均年齢は20代後半です。ホルモン補充療法を行なっている閉経後の女性における発症は報告されていません。プロゲストーゲン過敏症は稀な疾患ですが、認識が不十分である可能性があり発生率や有病率は不明です。


皮膚症状は湿疹、蕁麻疹、血管性浮腫、丘疹、小水疱など様々な形態をとり、13%に喘息症状がみられ、アナフィラキシーを呈することもあります。妊娠中の場合、分娩期から症状出現し、分娩後に消失するときもあれば持続することもあります。患者によって臨床像は様々であり、Ⅰ型、Ⅲ型、Ⅳ型アレルギーなど複数の機序が関与していると考えられています。


病因による症状出現時期の違い

正常な月経周期ではプロゲステロン濃度は排卵24〜48時間前から上昇し始め、月経開始7〜8日前に最大となります。妊娠が成立しなければプロゲステロン濃度は低下し月経開始に至ります。内因性黄体ホルモンが原因の場合、症状は月経3〜10日前に出現し、月経数日後に消失します。これはプロゲステロン濃度のピーク期間と相関しています。


一方、外因性黄体ホルモンの一般的な原因には、経口避妊薬、プロゲスチン含有子宮内避妊器具、体外受精の際に使用される高用量黄体ホルモン製剤などがあります。外因性黄体ホルモンが原因の場合は、曝露後に症状は現れます。多くは外因性黄体ホルモンへの曝露で誘発され、内因性によるものは少ないとされています。


鑑別診断

鑑別診断には、月経期に服用したNSAIDに対する過敏症(NSAID使用時に症状が出現する。服薬中止して評価を行う)、慢性特発性蕁麻疹(6週間以上にわたり蕁麻疹が持続する。黄体期以外にも症状が出ている)、既存のアレルギー性皮膚疾患の月経前増悪、エストロゲン過敏症(プロゲストーゲン過敏症よりさらに稀な疾患。月経前に症状出現する)、月経随伴アナフィラキシー catamenial anaphylaxis(月経開始から症状出現する。プロスタグランジンが関連すると推測されている)、授乳アナフィラキシー(分娩後数日に症状出現し授乳行為と関連する)などがあります。またタンポン使用に伴うtoxic shock syndrome(発熱、多臓器障害を伴う)も除外すべきです。


診断

診断は病歴と身体診察に基づきます。診断に必須の基準は、月経周期の黄体期に症状が出現すること、または外因性黄体ホルモンへの曝露と関連して症状がみられることです。即時型アレルギーが疑われる患者にはプロゲステロン特異的IgE検査やプリックテストが行われますが、他のアレルギー機序が関与している可能性もあるため検査結果陰性であってもプロゲストーゲン過敏症を除外することはできません。プロゲステロン負荷試験は診断に有用ですが、過去にアナフィラキシーを起こした患者には避けた方がよいとされています。


治療・予防・予後

プロゲストーゲン過敏症における治療の基本は外因性黄体ホルモンの回避です。しかし不妊治療などで回避が難しい場合や、内因性黄体ホルモンによる場合は症状緩和を目指して治療を行います。蕁麻疹、血管浮腫に対しては抗ヒスタミン薬が使用されます。一部の報告ではステロイド外用薬/経口薬が有効だったとされています。他には減感作療法、抗IgE抗体療法(オマリズマブ)、排卵抑制療法、卵巣摘出術などが有効であり、将来の挙児希望、不妊治療中であるかどうかによって治療が選択されます。


重要ポイントのまとめ

●月経周期に一致する原因不明のアレルギーではプロゲストーゲン過敏症を考える

●原因となる外因性黄体ホルモンには経口避妊薬、子宮内避妊器具、体外受精の際に使用される黄体ホルモン製剤などがある。

●診断は症状出現の時期が重要であり、月経周期の黄体期に症状が出るか、または外因性黄体ホルモンへの曝露と関連して症状がみられる。

●治療は将来の挙児希望の有無、不妊治療中であるかどうかで選択される。




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