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救急外来で診る精神症状ガイドブック を翻訳しました

初めて本格的な翻訳の仕事をさせて頂きました。

精神科のない丸太町病院ですが、内科を研修したいとのことで、精神科に興味をもつ研修医たちが今までに幾人も研修してくれています。その中でも救急診療にも精神科にも造詣の深かった、井本先生と三浦先生の2人の卒業生に翻訳をお願いしました。


以下は監訳の言葉です。


 救急の現場にて、精神疾患の対応に困ったことのない救急医はいないだろう。確かに精神科救急事業は随分と推し進められたようには思う。各都道府県に精神科救急情報センターが配備され、精神科救急入院料病棟も増えた。2015年には日本精神科救急学会が精神科救急ガイドラインを公表した。しかしそれでも現場では対応に困る症例が後を絶たない。そのような中、2022年4月からは精神疾患患者を入院医療中心から地域生活中心へとシフトさせることを目的に精神科救急入院料の病床数が減少する。この影響は監訳時点ではまだ明らかではないが、救急で働く多くの医療従事者にとって、精神疾患の対応について熟知する必要性がさらに高まることがあっても、低くなることは無いと思われる。

 そもそも救急医療と精神症状は切っても切り離せない関係にある。厚生労働省の発表によると我が国の精神疾患の受療患者数は400万人とされ、精神疾患はコモンな疾病である。急性疾患罹患時には苦痛や不安により、もともとの精神症状が悪化することは想像に容易い。もちろん神経内科的疾患、中毒、内分泌代謝性疾患などの身体疾患そのものにより精神症状が前面に出現することもある。これらを合わせると救急外来受診者が何らかの精神症状を有することはむしろ一般的ともいえるシチュエーションである。ところが精神科において、救急診療は必ずしも注目はされていないようだ。これは緊急心臓カテーテル検査が花形である循環器科や、近年緊急での血管内治療が進歩している脳神経内科/外科とは大きく異なる。結果として殆どの精神疾患の救急診療は、救急現場の非専門医に委ねられている。精神科医の限られたマンパワーを考えてもこの事実は今後も変わることはないだろう。つまり、非専門医が、救急医が、内科医が、当直医が、プライマリケア医が、精神科救急診療を習熟しなければならないことは必然なのである。

 では非専門医が精神科救急を学ぶにはどうすれば良いのであろうか? あるいは駆け出しの精神科医が救急対応を学ぶにはどうすれば良いのであろうか? 救急領域において、高い教育効果を持つことが示されている教育コースの代表にACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)やICLS(Immediate Cardiac Life Support)がある。ACLSやICLSは心肺蘇生についてのコースであるが、Advanced Life Support Group(ALSG)は精神科救急に特化したコース「Acute Psychiatric Emergencies(APEx)コース」も展開している。APExコースは、誰でも効率よく学ぶことができる優れたコースであるが、本書はAPExコースの自己学習を可能とする書籍「ACUTE PSYCHIATRIC EMERGENCIES - a practical approach -」の和訳版である。一流の救急医と精神科医が集まって作りあげたもので、世界的にも広く知られているAPExコースを手軽に習得できる待望の一冊である。

 本書を単なる訳書ではなく、現場で使える書籍とするために、第一戦で働く医師に翻訳をお願いした。監訳に当たっては日本の実情に則するように、薬剤選択についてなどの訳注を附けさせて頂いた。法的解釈についても日本の実情と展望について専門家によるコラムも追加した。精神科救急に携わる機会の多い救急医のみならず、精神科救急に関わる可能性のあるすべての医師にとって有用な書籍であり、監訳に携われたことは感謝に堪えない。本書が一人でも多くの医師に、看護師に、その他の医療従事者に、そして患者や家族にとって有益であることを願う。


 なお、翻訳が非常に難しい箇所が当然のことながら存在した。学生時分からご無沙汰してた英々辞典を紐解いても分からない。そのような時、「EIGOCLINIC」を思いだした。nativeの英文校正士が所属しているので普段は論文の英語校正などをお願いしているが、ここも卒業生のつてで、native speakerに英語を(無理やり?)たびたび教えていただいた。EIGOCLINICは一般英会話レッスン(オンライン+京都市内出張)がお薦めらしいので、英会話に興味のある人は医者じゃなくてもぜひお試しあれ?


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