新生児・乳児消化管アレルギーは、その名の通り新生児から乳児期において牛乳や大豆、コメ、えん麦(オーツ麦)が原因で嘔吐、血性下痢などの消化器症状を呈するアレルギー疾患であり、非IgE依存性消化管食物アレルギーと考えられています。国際病名としては、non-IgE-mediated gastrointestinal food allergy (non-IgE-GI-FAs, 非IgE依存性消化管食物アレルギー)といわれ、food-protein induced enterocolitis syndrome (FPIES, 食物蛋白誘発胃腸炎), food-protein induced proctocolitis (FPIP, 食物蛋白誘発結腸直腸炎), food-protein induced enteropathy (FPE, 食物蛋白誘発腸症)に分類されます。このうち、FPIESは急性で特徴的な症状をきたし、最近10年で報告数が増加しており、成人でも報告され始めています。以上のことから、総合診療領域でも診る可能性のある疾患であり、ここでは成人発症のFPIESを中心に解説します。
成人のFPIESは、明確な診断基準はないですが、新生児、乳児ではFPIESの診断基準が提唱されており、成人でもそれに準じることになります。新生児、乳児では主に牛乳、大豆が原因食物であることが多いですが、成人では魚、貝、甲殻類、イカやタコなどの魚介類やマッシュルームで多く報告されています。地域差も見られ、食習慣や遺伝的な要素の違いによると考えられています。
症状
典型的には、通常のIgE依存型と異なり原因食物を摂取してから、平均3時間程度経過してから嘔吐で発症します。嘔吐は必発ですが、腹痛、虚脱症状や下痢(特に血性下痢)、血圧低下を伴うこともあります。非IgE依存であるため、蕁麻疹や血管性浮腫、呼吸器症状を伴うことはありません。成人では女性に多い可能性があり、症状は1分以下しか続かないこともあれば、48時間続くこともあり、一定していません。
検査
乳児では好酸球増多、リンパ球刺激試験での異常、血性TARC(thymus and activation-regulated chemokine)高値、牛乳特異的IgE抗体陽性、CRP上昇、便粘液中好酸球などの所見がみられることがありますが、確定診断には食物経口負荷試験で誘発、あるいは、消化管組織検査で他の疾患の除外、および好酸球増加の証明が必要とされています。乳児好酸球性胃腸炎の原因は、ほとんど非IgE依存性アレルギーによるため病理組織所見で確定診断できますが、成人においては当てはまらないため、食物経口負荷試験のみが確定診断の方法となります。
食物経口負荷試験で証明されている成人のFPIESは一例し新生児、乳児のFPIESの食物経口負荷試験の解釈大基準小基準原因食品摂食1−4時間後の嘔吐で、IgE依存性の皮膚や呼吸器のアレルギー反応を呈さない倦怠感虚脱、蒼白5−10時間後の下痢低血圧低体温負荷前と比較して1500個/μl以上の好中球上昇大基準を満たし、小基準を2個以上満たしたとき陽性と判断する。新生児、乳児のFPIESの食物経口負荷試験の解釈か報告がありませんが、これも新生児、乳児の食物経口負荷試験の解釈の診断基準も提唱されており、これに準じて食物経口負荷試験を解釈することになります。しかし、現実的には原因物質摂食後数時間で生じる嘔吐、血性下痢という典型的な症状から推測することになります。また、本症例のように複数の食品で生じる可能性があるため、病歴聴取ではその点も注意する必要があります。海産物の摂食後の消化器症状という点から、鑑別診断は、感染性腸炎、ヒスタミン中毒、アニサキスアレルギーなどが挙がります。
治療
治療は、対症療法と原因食物の回避による予防になります。通常は、数時間程度で自然軽快するものの、血圧低下がみられる場合は、輸液が必要になることがあります。しかし、アナフィラキシーショックと異なりIgE依存性アレルギーではないためアドレナリンや抗ヒスタミン薬の投与は必要ありません。
予後
新生児、乳児では年齢とともに軽快、治癒することが多いですが、成人では不明であり、原因食品の回避をするのが妥当と考えられます。
ポイント
・新生児、乳児消化管アレルギーはFPIES, FPIP, FPEに分類される。
・FPIESは成人でも生じることがあるが、魚介類で生じる。
・成人FPIESは、魚介類摂食後に数時間で嘔吐を生じ、血性下痢を伴うことがある。IgE非依存性であるためアナフィラキシーとは異なり、皮膚や呼吸器症状を伴わない。
・食物経口負荷試験での陽性が確定診断だが、実際は病歴で診断することが多い。
・治療は、対症療法と原因食品の回避。
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