雑誌「総合診療」の連載ですが4月から新しくテーマを変えます。
医学と日常の狭間で| 患者さんからの素朴な質問にどう答える?
としました。
科学少年だった自分が医学を志したのは、目の前の素朴な疑問を解決したかったからです。お医者さんになれたらカッコイイな、と思ったことは確かですが、特に教授になりたいとかノーベル賞受賞者になりたいとか大層な想いを持ったことは一度もありません。でも、目の前の疑問には常に真摯に対応したいと思っています。その事が今まで診断がつかなかった病気を見抜くことにつながったりするので、もうやめられません。
さて、今回は素朴な疑問すぎて今まで医学書にはあまり書かれなかったことを取り上げられたらよいなと思っています。素朴な疑問大歓迎です。医学書院に連絡頂ければそのテーマを調べて書こうと思っています。実は最初は専用のホームページを立ち上げる予定で準備しました。しかし、寄せられるのは素朴な疑問ではなく、一般的な医学的な質問が多いのではないかという懸念があり、断念しました。
素朴な疑問とは何なのかは定義できませんが、患者やその家族が何気なく質問するもので、専門用語を含まないのが良いと思います。たとえば、「雨に打たれると風邪をひく」「髪の毛乾かさないで寝ると風邪をひく」とかです。
ということで、初回のタイトルは「雨に打たれると風邪をひく?」としました。
結論としては、寒い時期に感冒罹患は増加するが、身体を冷やすことで風邪をひくわけではない、です。また、(本文読まないと何のことか分からないと思いますが)臨床研究においても日常生活においてもバイアスの存在には注意をはらうべきであることを教訓の一つとしました。
このテーマで一番重要な論文を紹介します。
DOWLING HF, JACKSON GG, SPIESMAN IG, et al. Transmission of the common cold to volunteers under controlled conditions. III. The effect of chilling of the subjects upon susceptibility. Am J Hyg. 1958;68(1):59-65. PMID: 13559211
感冒患者から鼻水を採取して、それをボランティアに移植して感染させる実験です。快適な環境(27℃、湿度30%)を下着、短パン、靴下姿で4時間過ごした場合と、寒い環境(16℃ 、湿度80%)を同じ格好で4時間過ごした場合、非常に寒い環境(-12℃、湿度80%)を暖かい格好で2時間過ごした場合が比較され、その前もしくは後に感冒患者からの“鼻汁移植”を受けました。その結果、鼻汁移植群(428例)も対照群(233例)も寒冷環境により感冒罹患率が高くなることはありませんでした。
世界大戦後、タスキギー研究が問題となるまで倫理的に問題となる研究デザインの報告が米国では多数ありました。その中では非常に良心的な研究だとは思いますが、現在、鼻汁移植をうけるボランティアをこれだけ集めることはできないでしょうね。この研究には類似研究がいくつかあって、その一つが風邪の自然歴を明らかにしています。
JACKSON GG, DOWLING HF, SPIESMAN IG, et al. Transmission of the common cold to volunteers under controlled conditions. I. The common cold as a clinical entity. AMA Arch Intern Med. 1958;101(2):267-278. PMID: 13497324 よりイメージ図作成
くしゃみや頭重感・倦怠感で「風邪かな?」と思うのは正しい。咽頭痛が強くなり発熱出現し、風邪と確信する。最後に鼻閉になって膿性鼻汁となっても細菌感染とは言えない。自然経過。同様に咳が2-3週間残るのはよくある話。でも、咽頭痛が1週間以上改善しないのは違和感。この知識がAOSDの診断に役立ったりする。古い研究も読み直すと大変勉強になります。
Commenti