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昆虫アレルギー

ここでは一般的なアレルゲンであるダニ(ハウスダスト)以外の昆虫アレルギーについて解説します。


ゴキブリ喘息

ゴキブリアレルギーは1964年にBerntonらが報告して以来、吸入アレルゲンとして注目され数多く研究がなされてきた。米国バルチモア小児喘息患者を調査した研究では、都市部の貧困層でのゴキブリアレルギーが77%と顕著に高い値を示した。

2017年のRabitoらの報告では、都市部の住宅においてのゴキブリ駆除戦略を示すとともに、ゴキブリの減少が感作を受けていた喘息患児の喘息罹患率の有意に改善させることを示した。これは本症例同様にゴキブリ駆除が、今後の喘息コントロールにおいて非常に有用なプラクティスである可能性があると言える。

本邦ではチリダニに対するアレルギーが多く、ゴキブリアレルギーの存在は小児領域以外ではあまり認知されていないが、1973年に根本らが、本邦で初めてゴキブリ喘息の症例報告をして以来、多数報告されており、気管支喘息の原因として病歴聴取すべき重要なリスク因子であると言える。



ゴキブリ以外に注目すべき昆虫アレルギー

気管支喘息とダニなどを含む虫アレルゲンは多くの研究で密接に関わっていることが示されてきた。本邦ではダニの報告が多いが、ゴキブリは欧米を中心として国際的に喘息のリスクファクターとして重要な室内環境アレルゲンと考えられている。ハウスダストも気管支喘息と関連性が強いが、多種多様なアレルゲンの混合物であり、家屋で優位なアレルゲン種が異なり、患者毎に影響を受けているアレルゲンは異なっている。本邦では室内ハウスダストに、チャタテムシ目・双翅目(ユスリカ、ハエなど)・鱗翅目(ガ、チョウ)が頻繁に見られ、吸入性アレルギー(気管支喘息やアレルギー性鼻炎)の報告も多いため、これらの昆虫の重要性は高いと考えられている。

また、これらの虫はダニと抗原性が異なるため、個別で把握する必要がある。


まぶし喘息

養蚕農家において、蚕が繭を作る場所は”まぶし”と呼ばれている。蚕種工場では一連の作業中に、繭の主成分である蚕蛾のりん毛が粉塵となって大量に浮遊している。ここで働く作業員が喘息症状を示すことがあり、この職業性喘息は、1953年七条教授により”まぶし喘息”と命名された5)。一方で、1979年、木野らは養蚕業者に限らず成人喘息患者においてカイコガの感作率が50-60%と高いことや、カイコガのアレルゲン吸入試験で喘息発作の誘発を示した。さらに、カイコガの翅が、一般的な鱗翅目の翅アレルゲンと高い交叉反応性を持つことを示し、カイコガアレルゲンがその他の鱗翅目のアレルゲンの代用として意義があることがわかった。


チャタテムシ

代表的なものは、コナチャタテ科(Liposcelididae)ヒラタチャタテ(Liposcelis bostrichophilia)である。体長1~1.3mmほどで乾燥食品や衣類や古い本(図書館で喘息を誘発しうる)からも見つかる。このため本シラミ(book lice)とも呼ばれる。呼称の由来としては、日本家屋の障子にとまって「サッサッサッ」と出す音が抹茶を立てる音に似ていることから”茶立虫”名づけられた。

高温多湿環境を好み、日本やインドなどの報告が多く、近年の室内機密性の向上が増殖につながっていると言われている。前述した通り、本邦の家屋におけるハウスダストに良くみられるアレルゲンの1つであるが、その中でもチャタテムシは90%以上と高頻度でみられたという報告もある。尾上らは、小児喘息患者においてチャタテムシが昆虫アレルゲンの中でもかなり感作頻度が高いことを示し、さらにヒラタチャタテムシによる抗原吸入誘発試験にて喘息発作が誘発されることも報告した。したがって、チャタテムシは気管支喘息の発症や増悪因子になっている可能性があるといえる。また、本種はカビアレルゲンとして知られている耐乾性カビ(Aspergillus section Restricti)を餌にしており、カビとの関連性が注目されている。



ユスリカ喘息

ユスリカ科(Chronomidae)に属する昆虫は蚊に似ているが吸血性を持たない。蚊柱を作って交尾する特徴を持つ。古くは1978年、アフリカの北スーダン地方でナイル河にダムが作られたことでユスリカが大量発生し、ユスリカ成虫の1つであるGreen nimiti midge(Cladotanytarsus lewsi)をアレルゲンとする喘息・鼻炎について詳しく調べられている。その後、ユスリカ喘息の報告は世界的にみても報告はみられず、スーダンの地方特異的現象と考えられていたが、1985年五十嵐らが富山市周辺に大発生したミヤコムモンユスリカ(Polypedilum kyotoense)において皮内反応・P-K testでユスリカ特異的IgE抗体を証明し、抗原吸入誘発試験でユスリカ喘息を確認した。


アレルギー性鼻炎

吸入性アレルギーとして、喘息以外に多く報告がある疾患はアレルギー性鼻炎である。その中でも関連が報告されているものは、ダニ以外ではチョウ・ガ・ユスリカ・ゴキブリ・トビケラである。最近の報告では、東京都と栃木県をそれぞれ都市部と郊外における昆虫アレルゲン感作について調査し、両者に差はなく、ガの感作率がユスリカ・ゴキブリと比べて有意に多く、昆虫アレルギーに関連したアレルギー性鼻炎は通年性が多かった

興味深いことにこれらの昆虫は、前述の通りハウスダストに高頻度で見られる。吸入性アレルギーを疑う場合で、様々な混合物であるハウスダストを原因と考えた場合は同様に昆虫アレルギーを疑う必要があると言える。


診断

ゴキブリ喘息の診断に関しては、基本的に吸入誘発試験の結果に基づいて行う。

ただ、処理された抗原であっても、微生物侵入などの観点から皮内テストや吸入負荷試験は実施すべきでないという意見もある。今症例では、ゴキブリが多い生活環境や、特異的IgE抗体検査にてダニ・ハウスダスト陰性かつゴキブリ陽性であったこと、また環境整備により症状軽減した経過を合わせるとゴキブリ喘息と診断しても良いと考えられる。


治療・予防・予後

ゴキブリアレルギーに特異的な治療はないが、アトピー型喘息の場合は抗原回避を第一とし、合わせて一般的な喘息治療を行うことが重要である。また、ダニ同様に虫体そのものだけでなく糞にもアレルゲンが含まれていると言われているため、ゴキブリ駆除だけでなく、布団や衣類の清掃も重要と考えられる。


まとめ

・ゴキブリ喘息は詳細な病歴聴取と抗原吸入誘発試験で診断できる。

・重要な治療は、ゴキブリ駆除だけでなく室内清掃である。

・ハウスダストは多種多様なアレルゲンの混合物のため、ハウスダストを一括で考えない。

・吸入性アレルギー(気管支喘息・アレルギー性鼻炎)ではチョウやガ・ユスリカ・ゴキブリ

 における昆虫アレルゲンが重要である。




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