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献本御礼:精神症状から身体疾患を見抜く

DSM5の5軸の中には1、薬物乱用を含む精神疾患、3、一般的な身体疾患が含まれています。つまり精神科医は常に身体にも眼を向けています。

それにもかかわらず、身体医が身体疾患を見落としたならば、顔から火がでる思いになります。そんな思いをしたくない人には読んで欲しい本です。



その患者は精神科じゃない!


内科外来、内科病棟ではいわゆる外因性の精神症状、器質性精神病といわれるものの鑑別が必要となるケースはよくある。つまり精神科にコンサルタントを頼むのか、緊急性のある内科診療をする必要があるのかについて判断が迫られるのだ。

しかし一般的な検査(脳のCTや血液検査)で身体疾患をスクリーニングをしようとするとすり抜けてしまう疾患も多い。さまざまな感染症、腫瘍、膠原病、薬の副作用が精神症状をもつことは知られているにもかかわらず、精神症状から身体疾患を切り分けるための方法論は語られてこなかった。

本書では内科医が精神科に送る前に必要となるこのスクリーニングをより高い精度で行うための考え方を示している。まずはどう考え、どう問診し、どんな検査をプラスしたら見逃しを減らせるのか、内科医が陥りやすいピットフォールを回避し、正しい診断への筋道がわかるようになる。


以下本文から抜粋・メモ書き


・急性外因反応型:精神科医が身体因性の精神症状を疑うのは、意識障害の有無。意識混濁だけではなく、暗算ができなかったり言葉を言い間違えるという認知機能低下がある時も同様。その一方で意識障害がなくても身体因性ではないとは言えないが。

→ 意識混濁の患者だけを意識障害の鑑別に入るのは身体疾患を見落とすのでダメということ。せん妄の診断には注意力低下、計算できない、見当識障害などが根拠となっているので、納得。


・音楽性幻聴、要素性幻聴が統合失調症で単独で認められるのはまれ。難聴の人の幻聴を聴覚性シャルル・ボネ症候群と呼ぶ。


・ペンキ職人の自己臭妄想。有機溶剤後遺精神病。

→これは診断難しい。社会暦大事だなあ。


・妄想性人物誤認症候群

見た目は同じと分かるが別人がすり替わっていると信じるカプグラ症候群、みたことない人を知人がすり替わっていると信じるフレゴリ症候群は、統合失調症に典型的だが変性疾患や脳血管障害でも多数報告あり。


・重複記憶錯誤

統合失調症では人物に関する重複(同じ○○さんには、天使の○○さんと悪魔の○○さんと恋人の○○さんと何人もいるという認識)が起こり、身体因性(右前頭葉~側頭葉病変?)の場合は場所に関するものが多い。京都の丸太町病院、東京にも丸太町病院、ハワイにも丸太町病院みたいな感じ。


・作話と妄想の違い

妄想は訂正できない確信で、妄想により言動が左右される。作話は確信度が低いが、両者を鑑別するのは結構難しい。

作話はだますつもりはなく、背景に記憶障害がある。作話を疑ったら記憶障害をチェック。前脳基底部病変が多い。

→同部位の病変は性格変化も多い。


・てんかん性健忘と認知症

側頭葉てんかんによる健忘は3つあり。

一過性てんかん性健忘:前向性健忘。数分~数十分。単純部分発作で意識減損ないので覚えられなかったことを覚えている。

Accelerated long-term forgetting(ALF):数分~数時間は記憶保持できるがそれ以上記憶を固定化できない。

Remote memory impairment(RMI):てんかん発症前の遠隔記憶が数十年にわたり著しく障害。


・アナルトリー

構音の障害とも訳されるが、いわゆる構音障害ではない。発話するときに不規則に語音がゆがんだり、音のつながりが悪くなったりすること。丸太の神経内科カンファでは良く出てくる単語ですので覚えておきましょう。


・錯誤

違う単語を言ってしまう語性錯誤は健常人でもある。醤油とってと言いながら、塩を指さすなど。

音韻性錯誤はりんごを「みんご」と言い間違うもの。中心後回下部~縁上回~上側頭回後部に局在。

新造語ジャルゴンは文構造は保たれるが単語がこの世に存在しないものに置き換わり意味不明な言語になるもの。脳血管障害に多い。

意味性ジャルゴンは意味性認知症に多い。

未分化ジャルゴンは文構造すらない。

→ Jargonは一般人にとっては意味不明な専門語という訳なのは皮肉な感じですが。保続の要素も考える必要があったり、Jargonについては日本語特有のものがあるという考えもあり、一人の臨床経過の中でも複雑に変動するため奥深い領域です。


・原発性進行性失語

進行性非流暢性失語(PNFA)、意味性認知症(SD)、ロゴぺニック型原発性失語(LPA)

関係ない論文からですがまとまった表を紹介

IRYO Vol. 69 No. 6(267-274)2015

Clin Neurol 2012;52:1224-1227


・Ictal fear

こみ上げる様な上腹部不快感、Deja-vu, Jamais vu、幻臭などと同様に側頭葉てんかんでみとめうる表現型で、突然出現する恐怖。パニック発作では誘因や予期不安が確認できることで鑑別。自動症を伴う意識減損もあれば有用。


・発作後精神病

lucid intervalを1-3日経て、急性精神病状態に陥り3-7日で改善。

ちょっと気になる症例があったので、ついでに神経内科学会のガイドラインから引用すると

  • てんかんに合併する精神病の頻度は,てんかん全体で は 5.6%(95%CI:4.8~6.4%,オッズ比 7.8),側頭葉てんかんでは 7%(95%CI:4.9~9.1%).

  • 発作間欠期精神病が 5.2%(95%CI:3.3~7.2%),発作後精神病が 2%(95%CI:1.2~2.8%) .発作前精神病や発作時精神病はまれで.  

  • 発作間欠期精神病は,強い情動変化を伴う妄想性精神病で,統合失調症に典型的なあやつられ体験などの第 1 級症状を伴うこともあるが,統合失調症と異なり感情は保たれる.

  • 交代性精神病は発作間欠期精神病の亜型で,発作抑制とともに多形性の感情・妄想症状 が生じる.脳波検査を行うと強制正常化(逆説的正常化)がみられることが多いが,診断は 脳波検査を行わなくとも可能である.外科治療による発作消失時に生じることもある

  • 発作後精神病は,発作の群発後(まれには単独発作後),24~48 時間の意識清明期を経 て,1 週間以内に幻視・幻聴・妄想が生じる.多形性の幻覚妄想状態で情動変化を伴い,数 日~数週間(通常は 1~2 週間)持続する.

このlucid intervalの存在が興味深いですね。


・NMDA受容体抗体脳炎

数分から数十分の間に情動が変化する、前向性健忘、1日が48時間のように感じる、歌や時間が逆から流れているように聞こえる、しらすの眼が怖いといった知覚変容。


・内分泌疾患によるうつ症状

うつ病ににた気分や欲動の問題が出現するものの、罪業感や微小妄想などの悲哀の色彩は薄いかも。


・アルコール幻覚症

アルコール依存者に多いが、飲酒中でも起こりうるのが離脱症状と違う。軽蔑される幻聴、追跡妄想観念など。急性発症し落ち着くものから慢性的に経過するものまであるように思っていましたが、長いもので6カ月持続だそうです。


・遅発性パラフレニー

→1955年に提唱されたもので60歳以降に発症する妄想状態を指し人格や感情的な反応は保たれる疾患。女性、独居、社会的孤立、難聴、隣人からの被害妄想が特徴。最近は高齢発症統合失調症様精神症状(Very-late-onset schizophrenia-like psychosis;VLOSLP)とも呼ばれるもので、認知症の前駆症状的な扱いをする報告もあります。これはとても多いように思います。

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