8月28日に京都府医師会の主催で、総合診療力向上講座を講演させて頂きました。
テーマは前半はリンパ節腫脹へのアプローチです。
頚部リンパ節腫脹は頚部前屈して行うべし。
耳介前リンパ節は流行性耳下腺炎、耳介後リンパ節は風疹の診断に有用。
Delphian nodeがあれば予後の悪いお告げ。
鎖骨上リンパ節はバルサルバ法が有用かも。
腋窩リンパ節は奥まで指をいれたら、大胸筋あるいは上腕内側に沿って引いてくるときに触れる
滑車上リンパ節と鎖骨下リンパ節は触れたら異常。
滑車上リンパ節は握手をするようにして患者の手を保持し、もう片方の手で診察。
鼠径部は水平成分だけではなく垂直成分も意識して診察。下腿蜂窩織炎では垂直成分が腫れることが診断・重症度評価にも役立つ。
リンパ節腫脹は超音波で経時的フォロー。細長い、リンパ節門あり、放射状血流は良性だが、そうでないものは早期に生検すべし。
悪性リンパ腫疑えば細胞診ではなく初めから生検をしたい。
リンパ組織には扁桃腺、肝臓、脾臓、骨髄もあることを忘れない。
脾腫は深呼吸できるならCastell、できないならTraubeの打診。検者の立ち位置が患者の左頭側であることとと、患者の左拳を左背部に置いてそのうえに仰臥位となってもらう事が必要だが、Middleton法による触診は有用。
テーマ後半は「COVIDに負けない病診連携~看取りの連携のご提案~」でした。
コロナ禍で連携が困難となっていることが問題視されますが、現状としては院内では、救急~入院のスムーズな診療を実現しています。
現在進行形で進めたいこととして、丸太町病院とかかりつけ医との連携です。かかりつけ医にしか分からない情報こそ、救急医にとっても知りたい情報であると考えています。1)本人は大丈夫と言い張るが実はアドヒアランスが悪い、2)元気ではあるが普段通りは動けず生活に支障がある、3)家族が介護で疲弊している、など社会的理由を伝えて頂ければ、救急外来からであっても社会的入院を受けられるのが丸太町病院の良い点です。普段から救急車も社会的入院も受けている総合診療科医が内科診療全般を担当するために臨機応変に対応できます。その一方で様々な疾患の患者さんが入院する混合病床となるため空きベッド状況が予想困難で、本人・家族が希望する入院環境を提示できるかは、その時の状況によって変わってしまいます。特にCOVIDのため病床調節には苦労しており、これは今後の課題です。
我々は今までもかかりつけ医からの診療情報を可能な限り取り寄せるように研修医を指導してきましたが、これからはこちらからの情報発信も増やす必要があると考えています。例えば転倒をして救急搬送された認知症患者さんは、その旨を本人からはかかりつけ医には伝えません。ケガもなくそのまま帰宅されたとしても、私はかかりつけ医に診療情報提供をすべきであると考えています。それは向精神薬や降圧薬の減量中止が必要かも知れないし、骨粗鬆症の治療を開始するかも知れないし、状態が悪くなった時に当院への受診歴があることをあらかじめ知っていればスムーズな診療が可能になるからです。これはまだ十分には行えていないことかも知れませんが、今後改善して行きたいと思っています。
最後に高齢者CPAが望まない心肺蘇生を受けながら救急搬送される事例を減らしたいと考えています。病院の救急外来では家族から
そろそろ老衰で亡くなると聞いていた。何もせずに看取るという話だったのに、なぜ救急車で運ばれて、心肺蘇生をされたんですか!!
と、やるせない想いを伝えられることがよくあります。そこで、望ましい最後の迎え方を病院からもサポートしたいと思っています。
「人生の最終段階にある傷病者の意思に沿った救急現場での心肺蘇生等のあり方に関する提言(日本臨床救急医学会,2017)」では「救急隊が、心肺蘇生等を希望しない傷病者の意思を書面で確認したケースで、かかりつけ医等から具体的指示を確認できれば、その指示に基づいて中止できる」としており、東京や広島では実践もされていると聞きます。
広島圏域MC救急隊現場活動プロトコル(令和2年4月)には「明らかに死亡している」場合、行政サービスの一環として死亡者の搬送を否定するものではない、とも記載され、救急車で心肺蘇生せずに病院まで搬送することは可能なようです。
京都では心肺蘇生等を希望しない傷病者の意思を明確に判断するのは困難であること、過去に救急隊が心肺蘇生を不要と誤認した症例があったことなどによると思われますが、2021年8月現在では「DNARの意向(書面又は口頭)を関係者から示された場合であっても,救急隊が医療機関に緊急に搬送する場合は,関係者に事情を説明したうえで心肺蘇生法を実施して搬送すること」となっています。
病院で問題となる上記のような症例の多くは施設からの搬送ですが、介護施設における心肺停止時のDNAR対応マニュアル(平成 28 年度 消防庁消防防災科学技術推進制度)によると、「医師によるDNAR指示は、心肺停止直後の確認が原則である。ただし、事前に担当医師の具体的指示があれば、心肺停止数日以内の診察に基づく指示までを有効とする。」とあり、DNARの要件がやや厳しいように思われます。そのためか翌年に報告された高齢者福祉施設を対象とするアンケートでは、蘇生希望しない事前指示があっても蘇生中止すると答えたのは27%(目撃なければ蘇生中止を加えても38%)だけでした( 日本臨床救急医学会雑誌, 2017, 20 巻, 3 号, p. 521-52)。これではDNARの意味がないと考えるのは私だけではないでしょう。終末期類似状態傷病者のCPA搬送43例の報告でも職員がDNARを把握していた症例は皆無で全例CPRされていたという報告があります(日本臨床救急医学会雑誌, 2017, 20 巻, 1 号, p. 10-17)。
そこで、我々はいわゆる看取りと決まっている患者さんに対して、本人や家族が望まない最後を迎えることが無いように、病院からサポートできるシステムを考えました。
まずは看取り、DNARの方針を決定します。
ここで自分では看取らないかも知れないと思った場合、つまりは1)嘱託医であり24時間対応できず職員が訪問看護師も不慣れな場合、2)看取りは可能であるが年末年始などで対応できない場合がある、3)往診で看取りを始めようと思うがバックアップ体制が欲しい、などの状況では紹介状を丸太町病院に送付して頂きます(これで”かかりつけ医から当院への継続した診療体制”が整うため、当院でも死亡診断書の発行が可能となります)。
お亡くなりになった場合、葬儀屋さんの寝台車で丸太町病院へ搬送します。費用は別途かかります。
病院で診療提供書の内容と付き添いの職員さんからの話を統合し、疑義がなければ死亡診断書を発行します。(疑義があればAIや検死依頼をする可能性はありますが例外的と考えています)。
まずは皆でより良い医療の在り方を考えるきっかけとなれば良いと思い、今回の講演をさせて頂きましたが、講演会に参加頂きました開業医の先生方からは思ったよりも良い反響を多く頂きました。本当に有難うございました。
実際にこの看取りが行われることは数少ないかとは思いますが、病院勤務医が地域のためにできることを模索していく一つの取り組みとして温かく見守って頂ければ嬉しく思います。なお、この取り組みに関するお問い合わせは当院の地域連携室までお願い致します。
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