アレルギー性疾患は基本的にはアレルゲンへの暴露が誘引となりますが、運動誘発性アナフィラキシー(exercise induced anaphylaxis:EIA)と言って、発症直前の運動が誘引となる例があることが知られています。EIAはアナフィラキシー全体の1.5%程度と推測されています。EIAのうち、さらに運動前に特定の食物を摂取することが誘因として認められる場合があり、これを食物依存性運動誘発性アナフィラキシーと呼びます。FDEIAの特徴的な病歴としては、誘因となる食物の摂取単独や運動単独ではアレルギーは誘発されず、アレルゲンの摂取に引き続き運動を行うという一連の流れを持って発症することが知られています。
・FDEIAの誘因
国や風土によっても異なりますが、誘因となる食材としては小麦や豆類、貝類、トマト、ナッツ類などが知られています。日本の症例をまとめた報告では、小麦製品が60%、甲殻類が30%と報告されています。
誘発する運動の種類は問いませんが、ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動が誘発になることが多いようです。また、運動だけでなくアレルゲン摂取の後に入浴したり、アルコールやNSAIDsを服用することが誘因となる症例も報告されています。これらの誘因については本人は自覚していない、または発症との関連性に気づいていない場合もあり、疑って積極的に問診することが重要です。
なお、運動がアナフィラキシーを誘発する原因は依然はっきりとしていませんが、運動負荷により腸管の透過性が亢進することが研究で示されています。通常であれば問題にならない程度のアレルゲンへの暴露がこれにより吸収が亢進し、発症に至るものと推測されています。
また、小麦によるFDEIAの主要抗原はω5-グリアジンとHMWグルテニンと推測されており、特に即時型反応を有する小麦アレルギーでは前者の陽性率が高いと報告されています4。
■診断
アナフィラキシーを疑う症候があり、典型的な病歴が確認できれば臨床的に診断可能です。疑い患者に運動負荷によって誘発することも研究されていますが、ある報告では症例数は少ないものの感度64%と検査特性が不十分であり、実践的ではないように思います。他に、小麦アレルギーが疑われる患者ではω5-グリアジンに対する特異的IgE抗体を測定可能であり、診断補助に有用です。
原因不明のアナフィラキシーを繰り返す患者では、発症前の行動について食事内容だけでなく運動についても記録してもらうことで、診断に結びつくが可能性があります。
■治療、予防、予後
急性期の治療は他の原因によるアナフィラキシーと大きな違いはありません。アナフィラキシー徴候が明らかな場合や経過から疑いが強い場合、まずはアドレナリン(成人であれば0.3mg, 小児であれば0.01mg/kg)を大腿外側に筋注し、抗ヒスタミン薬およびグルココルチコイドの全身投与を行います。
また、一度発症した患者にはエピペン®︎の携帯と緊急時の使用方法について指導を行います。
予防には患者の疾患理解と生活指導が重要です。FDEIAではアレルゲンの摂食単独であれば発症しないことも多いため、必ずしも食事制限を厳格に行う必要性はありません。一方で運動の2時間ほど前からはアレルゲンの摂食を避けることや、運動するとわかっている場合は1−2日前からアスピリンの内服を避けることなどが有用と考えられています。他に、アレルゲンの摂取後すぐの入浴も同様に誘因となり得るため避けるように指導します。
運動時には軽い動作からゆっくりと開始し、高温多湿環境下での運動を避けること、また症状が出たらすぐに運動を中止することなどを指導します。症状出現時にはエピペン®︎を筋注し医療機関を受診するように指導しますが、症状が強い場合自身でエピペン®︎を使用できない可能性もあるため、運動時には必ず誰かに付き添ってもらうこと、また付添人もエピペン®️が使用できるように指導することが重要です。
薬剤による発症予防としては、運動1時間ほど前に抗ヒスタミン薬やミソプロストールの内服、クロモグリク酸ナトリウムの吸入などを行うことが有用と報告されていますが、いずれもケースレポートレベルであり、定まったものはありません。重症例ではオクリズマブ(抗IgE抗体)が有用であったとの報告もあるようです。まずはしっかりと生活指導を行い、それでも発作抑制が十分でない場合や、生活に支障をきたす場合はこれらの薬剤使用も検討します。
■重要ポイントのまとめ
・アナフィラキシーは臨床診断。疑いが強い場合は躊躇なくアドレナリン筋注、治療介入を。
・FDEIAはアレルゲン摂取+その後の運動でアレルギー誘発という連続的な病歴が重要。積極的なclosed questionで誘発因子を聞き出そう。
・FDEIAでは一般的なのアレルギー疾患の生活指導に加え、運動方法やアレルゲン摂取のタイミング、患者だけでなく周囲への指導など個別の介入が重要。必ずしもアレルゲンの摂取そのものができなくなるわけではないので、QOLを損なわないよう患者個々にしっかりと対策を。
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