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インフル学級閉鎖の意義

冬休みになるとインフルは少し下火になる。

PLoS One. 2015 Dec 15;10(12):e0144839.

これは児童でのインフル伝播は主に学校で起こっているためと考えられます。

さらに幼稚園・保育園~中学生までは罹患する患者が多く、社会におけるインフル流行の火付け役となっています。

PLoS One. 2015 Dec 15;10(12):e0144839.

そのため、インフル流行は内科医の耳よりも小学生の親に早く情報が入ることもあります。

また、学級閉鎖はインフルなどの流行に歯止めをかける効果が期待されてはいます。

学級閉鎖は学校保健法第13条における「臨時休業」に相当し、学校保健法施行規則第19条に定められる伝染病の一つであるインフルエンザで最も多く施行されていると思われます。 しかし学級閉鎖を行うべき明確な基準は乏しいようです。茨城県で昭和52年に県教育委員会教育長通知として「学級等における欠席率が20%に達した場合は、学級閉鎖、学年閉鎖及び休校等の措置をとる」という項目があり『学校医・学校保健ハンドブック』にも同様な記載がされています。 最終決定権は教育委員会にあり、個別で判断しているものと思われます。

また学級閉鎖と書きましたが、実際には学級閉鎖(緑)、学年閉鎖(赤)、学校閉鎖(青)と3段階があります。もちろん学級閉鎖が一番多いです。

各地での学級閉鎖の状況は http://www.life-support-lab.com/map/influenza/classes?state=26 で確認できます。

学校閉鎖すれば児童のインフルの50%以上を減らすことができるというシュミレーションもありますAnn Intern Med. 2012 Feb 7;156(3):173-81.)。 しかしこういったシュミレーションには様々な仮定がされており、例えば塾に通っている人の割合でも大分変わってくるのではないかと思うので、ちゃんと現実を反映しているのかは不明です。(児童を自宅待機させなければ閉鎖の意味はあまりありませんし、場合によってはその兄弟が出歩いて伝播することもありえます) またこれらのシュミレーションは積極的閉鎖といって例えば学級に1人の新型インフルが出現した場合に閉鎖にする、といったような状況で計算しているものが多いです。

現実世界では社会経済的な問題が大きく容易には閉鎖できない 学校側としても閉鎖すれば、授業を取り戻すのが大変、という問題点があります。 そこで、ある程度流行した場合に閉鎖する消極的閉鎖というのが今の一般的な学級閉鎖に当たります。

実はこの消極的閉鎖では効果はかなり限られたものとされます 下図ではピークが来てから閉鎖しても(青)、しなくても(赤)あまり変わっていません。

Lancet Infect Dis. 2009 Aug;9(8):473-81.

シュミレーションにおいても10%の休学がいると学校を閉鎖してもインフルの患者を10%減らすだけで、20%の休学がいるともはや変わりません(Emerg Infect Dis. 2007 Apr;13(4):581-9.)。

そのためか、季節性インフルエンザの流行で学校閉鎖することが標準的なのは日本とブルガリアぐらいで、イギリス・フランス・イタリア・米国・ニュージーランド・セルビア・南アフリカ・中国・香港・タイは標準的対応ではないようです。 BMC Infect Dis. 2014 Apr 16;14:207.

なお厚生労働省が平成21年に出している 「学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する基本的考え方について」では 消極的学校閉鎖の目的は、「欠席者が増えることに対する学校(学級)運営上の対応」と明記しています。

このように現状の消極的な学級閉鎖には効果が乏しいのかもしれませんが、 医者の視線からすると、インフルで学級閉鎖となったクラスの児童が発熱で受診すれば、インフル迅速検査はしなくても限りなくインフルを疑うことができる重要な情報となります。 また、事の重大さが容易に患者・家族に伝わることから、手洗い・マスク等の感染防御、家族への二次感染伝播予防対策などを徹底する患者・家族教育のチャンスでもあります。このような教育が”学級閉鎖”に付随する効果をもたらしてくれると良いのですが。

さて、次は、閉鎖するとしたらどの規模でどのくらいの期間にすべきかについてです。 効果としては学校閉鎖が最も高いことは高いが、コミュニティ全体として考えるとコストの割にそこまでの差異ではないようです。

閉鎖期間は5日間閉鎖するのが効果が高いという報告があります。

BMC Infect Dis. 2014 Dec 31;14:695.

それ以外には学級閉鎖を2日間するだけで1週間以内の収束のOR 3.2(1.1-9.1)という報告もあるものの(PLoS One. 2013 Sep 10;8(9):e74716)、閉鎖する規模よりも日数が長いことが効果を高くする(Infection. 2012 Oct;40(5):549-56.)、4日以上の閉鎖が望ましい(PLoS One. 2015 Dec 15;10(12):e0144839.)、などの報告から5-7日間の閉鎖が積極的な閉鎖では必要と考えられています。

消極的な閉鎖の場合も再流行をさせないためには可能ならば同一日数(5-7日間)が望ましいと考えられているようですが、 現実的には数日の閉鎖しかされていないと思います。 これは上記のように効果がさほど期待できないための確信犯なのでしょうかね。

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