本日は広島大学の学生さんにコミュニケーションスキルについての講義を行いました。
1年生なので医学的な話は少しだけにしました。少しだけ抜粋。
1.実はモラルは人それぞれ。 暴走列車が先の線路にいる5人を轢き殺そうとしています。 急いで線路を引き込み線の方に切り替えれば5人を救えますが、引き込み線で作業している1人は死んでしまいます。 あなたは線路を切り替えますか? → 多くは切り替える方を選びました。聴講者は80人ぐらいと思いますが、そのうち2人ぐらいが切り換えないほうを選びました。
では、暴走列車の前に人を突き落としたら突き飛ばされた人は死にますが、 列車は止まり、先にいる5人は救えます。 あなたは人を突き飛ばしますか? → 突き飛ばす人はほとんどいない。
というアンケート結果でした。 同じ1人を犠牲とし5人を救うという話なのに皆さんの選択が異なるのはなぜでしょう?
次に、危害/保護、公平/互恵、内集団/忠誠、権威/尊敬、純潔/神聖の5つのカテゴリーに分類したモラル度のアンケートを学生さんに行いました。 人それぞれで、権威なんてクソくらえ!という人もいれば、家族愛に満ち溢れた人もいました。 どの人のモラルが一番良いなどという答えはありません。 Science 18 May 2007;316(5827):998-1002
ここで考えてもらったのは、モラルでさえ人それぞれで、考え方などというのは人それぞれあって当然ということです。 医学的知識を振り回すだけでは患者さんは納得できませんし、ほかの医療従事者に自分の考えを押し付けるような医師は尊敬されるわけがありません。 我々は医師である前に一人の人間であり、多様性のある考え方・価値観を許容できる大きな人間とまずはなってほしい、その上で、専門的知識・技術と愛情という2つの武器を頼りに患者を適切な方向に導くのが医師の務めではないでしょうか。
ドラえもんが良いことを言っています。 「どっちも自分が正しいと思ってるよ。戦争なんてそんなものだよ。」
2.YES, BUTの法則はダメ 私は学生の時にYES, BUT法を習いました。「そうですね、でも・・・なんですよ」と一度相手の意見を許容し、その後正しい情報を与える技術です。 でも、実際にはうまく行きません。 医者:なるほど、風邪をこじらせて肺炎になるのが心配なのですね。でも、風邪に抗生物質は効きませんから、抗生物質は要りませんよ。 患者:でも、風邪をこじらせて肺炎になる人がいるって聞きましたよ。いつももらってるんだし。 BUTは否定語であり、さらなるBUTを引き起こし、単なる主張の言い合いになってしまいます。
だからYES, AND法というのを用いています。 医者:なるほど、風邪をこじらせて肺炎になるのが心配なのですね。 実は、風邪をこじらせて肺炎になるのはさほど多いことではないのですが、もっとよく起こる問題があります。何かわかりますか? 患者:・・・なんでしょう? 医者:それは薬の害です。困ったことに風邪に対する特効薬はありませんので薬で風邪を早く治すことはできず、症状を和らげることが目的となります。しかし薬が増えればその分だけ副作用も増えてしまうため、できるだけ○○さんに合った薬を出したいと思います。そのためどのような症状があるのか細かく聞かせて下さい。
このようにBUTではなく、「実は」「さらに」などを用いた上で正しい情報を与えることで、否定された印象を与えない技法です。また医者は質問で切り返していることにも注目です。質問形式の問いかけは、感情的な話ではなく論理的な議論への入り口です。例えば「この物件、高いよね・・」に対して「でも24時間安心セキュリティサポートがついてるので、、、」という説明は[でも、高いんでしょ]となるだけなので×です。「確かにちょっとお高いですよね。幾らぐらいなら良いと思いますか」「ところで24時間安心セキュリティサポートというのはご存知ですか?」という流れが良いわけです。
6年後、彼らが研修医となった時まで覚えていてくれるだろうか・・・
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