丸太町病院のメンバーで書いた本が出版されます。
救急外来は重篤な疾患が最も集まる外来であるため,必然的に検査は多くなる。しかし,本書ではあえて病歴や身体所見に重きを置いた。その理由は3つある。
1つ目の理由は,病歴や身体所見は検査よりもスピーディーに結果が得られるからだ。検査の多くは結果が出るまでに時間がかかる。血液検査を行い,さらにはその結果をみてから造影CTを撮像すれば1時間ぐらいかかるのではないだろうか?
しかし,病歴や身体診察であれば10分かそこらで答えが得られる。スピードが重視される救急外来でこの差は大きい。
2つ目の理由は,検査結果によって,疑う疾患が変わることは実は少ないからである。一般的に病歴により3/4が診断でき,検査により診断されるのは11〜15%だけであるとされる1,2)。検査は病歴や身体所見から疑われる疾患に対する“確認作業”であり,検査がなくても多くの症例は診断が可能なはずなのである。心不全の診断においても臨床判断だけで8割の症例で正確な診断ができ,胸部X線写真を加えることにより5%の症例でさらに正確な診断がされると報告されている3)。つまり胸部X線写真で心不全かどうかの判断が変わるのは20例に1例だけなのである。
3つ目の理由は,検査には侵襲・コストを伴うからである。医師からすれば,行うべきか迷った検査は行っておくほうが後悔が少ないとは思う。しかし,検査を受ける側からすれば,たとえば私が患者だったら,血管造影や試験開腹のような高侵襲の検査はもとより,不要な採血や点滴,X線写真撮影なども一切受けたくない。一方,病歴や身体所見は,侵襲もコストもほとんど気にせず確認できる。
医師は検査を使いこなすべきであるが,検査を多用すれば検査結果に振り回されることになりかねない。そんな危惧から,本書では超音波検査の有用性などを強調しながらも,検査に頼りすぎないという方針で書籍作成を心がけたつもりである。
本書は実際に救急外来で働く若手医師により,自分たちの疑問点が解決されるように分担執筆してもらった。彼らと同じような苦悩を抱えた医師のお役に立てれば幸いである。