重要性:
抗精神病薬はせん妄の苦痛症状に対して広く使用されているが、緩和ケアにおけるプラセボ対照試験では有効性が確立されていない。
目的:
緩和ケアを受けている患者を対象に苦痛に関連するせん妄の標的症状の緩和効果について、スペリドンまたはハロペリドールの有効性をプラセボと比較検討した。
方法:
2008年8月13日~2014年4月2日までの間に、オーストラリアで緩和ケアを受けていた人を対象にした多施設・二重盲検・パラレルアーム・プラセボ比較・無作為化試験。
被験者はせん妄症状を有する終末期患者でせん妄症状スコア(sum of Nursing Delirium Screening Scale behavioral, communication, and perceptual items)が1以上の患者であった。
除外基準:
薬剤離脱、悪性症候群既往あり、48時間以内の抗精神病薬の定期的な使用、抗精神病薬の副作用歴あり、錐体外路症状を呈する疾患、QT延長、7日以内の死亡予測、30日以内の脳血管障害や痙攀の既往、妊婦や授乳婦
介入:
せん妄の症状に基づいて、12時間毎に、リスペリドン、ハロペリドール、またはプラセボ溶液の経口投与を72時間行った。
(リスペリドンは65歳以下なら0.5㎎ 12時間毎が基本で最大4mg/日とし、65歳超では半減とした。)
また、重篤な苦痛症状または安全のために必要な支援的ケアとして、せん妄鎮静化の個別化治療、およびミダゾラム皮下注を受けた。
評価項目:
ベースラインから3日間の譫妄症状スコア(重症度範囲、0〜6)の平均群差の改善とした。せん妄重症度、ミダゾラム使用、錐体外路効果、鎮静、および生存は二次アウトカムとした。
結果:
ITT解析において、277名の被験者(平均SD年齢74.9歳、85名の女性34.4%、がん218名88.3%)が含まれた。
一次アウトカムのITT解析では、リスペリドン群で、試験終了時のプラセボ群よりも有意に高いせん妄症状のスコアを有していた。(平均0.48 Units; 95% CI, 0.09-0.86; P = .02)
同様に、ハロペリドール群でも、せん妄症状のスコアが、プラセボ群より平均0.24 units高かった。(95%CI、0.06-0.42; P = 0.009)
向精神病薬の使用は悪性腫瘍の存在についでせん妄を予測する重要な因子であった。他にはAKPSスコア(全身状態)、モルヒネの使用も有意な因子であった。
プラセボと比較して、実薬群の錐体外路症状が多い(対リスペリドン、0.73; 95%CI、0.09-1.37; P = 0.03、対ハロペリドール、0.79; 95%CI、0.17-1.41; P = .01)。
またプラセボ群では、ハロペリドール投与群(ハザード比1.73、95%CI、1.20-2.50、P = .003)よりも良好な生存期間を示した。
プラセボ対リスペリドンでは有意ではなかった(ハザード比1.29; 95%CI 0.91-1.84; P = .14)
結論:
緩和ケアを受けている患者に対するせん妄患者の個別管理や支持療法は、リスペリドンやハロペリドールを追加した治療に比べてせん妄スコアが小さくその持続期間も短い。
患者数が少ないことから、ハロペリドール群で若年者が少なく全身状態が不良で麻薬使用量が多いこと、リスペリドン群でベンゾジアセピンが事前投与されている患者が存在したことなどのバイアスの可能性を拭うことはできないが、それでもなお、今回の報告は安易な抗精神病薬の投与に警鐘をならすのに十分な根拠を与えたと思う。せん妄に環境整備が重要なのは重々分かっていが、もう一度考え直す良いきっかけを得ました。