高齢者における身体診察の心(こころ)と術(わざ)
についてお題を頂き、講演させて頂きました。
座長は音羽病院時代に同僚だった山本舜梧先生でした。久しぶりにお会いできてうれしかったです。
今回は普段の身体診察の話を少し変えて、見た目にこだわった話としました。
視診、聴診、触診、打診など診察方法は様々ですが、視診は何げなく行われるが故に熟練者の”わざ”として際立つものです。一方、何げなく見ることと、ちゃんと診ることは全く異なり、診たいもの・診るべきものを明確にして視診をすべきです。それは内科医に求められる心につながるものがあるのではないか、と考えます。
前置きはさておいて、急性腹症での視診の重要性。腸閉塞の診断に有用なのは手術痕、腹部膨隆、腸管蠕動、圧痛を意味する表情変化、外ヘルニア探しなどほとんどが視診です。一方、学生のデータでは腹部視診は非常に軽視されていることが報告されています。
(下の写真はそれだけで腸閉塞の理由まで推測できるはず)
全身状態把握は視診です。敗血症を疑うためのqSOFAの中でも重要視される2項目、意識障害と呼吸数は視診です。歩行障害や聴力障害などADL障害をきたすものも診察中の様子から分かります。高齢者では無理に疾患を探す必要はありませんが、ADL障害を来している疾患を看過することは許されません。
表情が乏しい場合、うつ、パーキンソン病、甲状腺機能低下症を否定したいです。高齢者では甲状腺機能低下症の臨床診断は非常に難しいですが、眼瞼浮腫、眼瞼下垂、眉毛脱落など顔の視診で分かることも沢山あります。また睫毛の消失(下図)も併せて評価したいです。
Br J Ophthalmol. 1972 Jul;56(7):546-9.
可能性が少しでもあれば、腱反射弛緩相遅延やMyoedema(叩く診察ですが目で見て確認するという意味で視診に含めさせてもらいました)を確認して頂きたいと思います。
Neurology. 2015 Jan 27;84(4):e24.
腱反射は普段から意識して診察していないと弛緩相遅延に気づけないので、常日頃から”わざ”を磨いておきたいものです。