最近、在宅酸素療法中の喫煙が大きな問題となりました。
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 酸素療法マニュアル(酸素療法ガイドライン 改訂版)によると在宅酸素管理中の重大事故の6割が火災です。
日本産業・医療ガス協会(JIMGA)が平成15年10月~平成30年5月までの「在宅患者居宅で⽕災が発⽣し、患者様が死亡ないし重体もしくは重傷を負った場合」に合致する72件を集計したところ、2/3が喫煙関係でした。
その一部の症例を示します。
厚生労働省から平成22年1月15日に通知されている「在宅酸素療法における 火気の取扱いについて」では
1)高濃度の酸素を吸入中に、たばこ等の火気を近づけるとチューブや衣服等に引火し、重度の火傷や住宅の火災の原因となること。 2)酸素濃縮装置等の使用中は、装置の周囲2m以内には、火気を置かないこと。特に酸素吸入中には、たばこ を絶対に吸わないこと。
と記載されています。
日本産業・医療ガス協会(JIMGA)のホームページからに掲載されている以下の動画は、特に後半部分は在宅酸素療法中の喫煙の危険性が良く分かるような構成となっています。
神戸市消防局のホームページにも同様な動画が公開されています。
2010年(平成22年)1月22日にNPO法人 子どもに無煙環境を推進協議会から、厚生労働大臣に、在宅酸素療法の必須要件として「禁煙及び禁煙治療」の義務化の提言・要請、がなされました。実際の文言としては「禁煙できない患者の在宅酸素療法は不可とし、必要により、入院等隔離治療を義務づけること(禁煙隔離と疾病治療のため)」となっています。
在宅酸素療法中の喫煙における最大の問題は本人の健康や生命ではありません。火事となれば隣家への延焼を始めとして多くの人に迷惑をかけます。本人が亡くなったとしても、家族や親戚がその罪を背負って生きていかなければならない可能性もあります。
このように火事は多くの人々に甚大な損害を与えるため、法律的にも放火は非常に罪が重く、刑法においても予備だけで罪としているのは内乱、外患(外国と通謀して日本国に対し武力を行使させるなど)、私戦、殺人、身の代金目的略取、強盗と放火しかありません。
喫煙をやめない患者さんには、火事に至った場合は自分の問題だけでは済まない、という視点をもって頂けるように丁寧な指導が必要だと思いました。
また、酸素を吸いながらも喫煙すると分かっている家族がタバコを与えていた場合は罪に問われるのでしょうか? 結果として火事に至った場合はどうでしょうか?
日本呼吸器学会が2009年にだしている「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第3版」にも「COPDでは禁煙が治療の前提であるが、特に酸素療法を行う際は禁煙の徹底を確認する。」と記載されており、医師としては在宅酸素療法中の喫煙は看過できないと考えますが、もし酸素を吸いながら喫煙するとわかっている医師が、在宅酸素を処方した場合の責任はどうなるのでしょうか?
判例検索ではこのような事案が検索されませんでしたが、認知症患者やてんかん患者の運転において家族や医師の責任が問われるようになりつつあることを考えると、在宅酸素療法中の喫煙に関しても今後は本人だけではなく家族や医師の責任が問われる時代になるかも知れません。