sp:feature:cs-optimization Gノート増刊 Vol.6 No.2 ジェネラリストのための 診断がつかないときの診断学〜非典型症例・複雑な症例に出会ったときの考え方とヒント
で分担執筆を行いました。
「もう,お手上げだ…」検査に検査を重ねても診断がつかない患者さんを前にそう思うことはないでしょうか.本書で正しい診断にたどり着くための考え方とテクニックを学び,診断推論の思考プロセスの落とし穴を知ろう! という観点から松村正巳先生がご企画されました。
第1章 診断困難症例に出会ったら ではどのように診断推論を展開するか、診断支援ツールの活用などを解説しています。
第2章 診断に苦慮した症例 〜何が難しいのか では実際の症例ベースのアプローチ方法について解説。
私はここで「痛み・疼痛の症例 2胆石・胆嚢炎の鑑別」を担当しました。
詳細は割愛しますが、無石胆嚢炎は集中治療患者において認めることが多い疾患です。循環不全、絶食、中心静脈栄養、セフトリアキソン投与などがそのリスク要因です。しかし外来患者で無石胆嚢炎を認めた場合には特殊な原因を考える必要があります。解剖学的な問題(胆道癌、二房性胆嚢:Phrygian cap gallbladder、胆嚢低形成、胆嚢捻転など)も場合により鑑別に加える必要がありますが、ここでは感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍の3つカテゴリーを考えましょう。
大きなカテゴリーを覚えたら、その代表的な疾患をおさえます。感染症に関しては無石胆嚢炎を引き起こす病原体は様々なものが知られていますが、特に報告が多いのはEBウイルスです。
ちなみに文献上はサルモネラ(チフス・非チフス),ビブリオ,カンピロバクター,レプトスピラ,レジオネラ,ブルセラ,Scrub typhus(ツツガムシ病),コクシエラ,結核菌,A型肝炎ウイルス,B型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,EBウイルス,サイトメガロウイルス,単純ヘルペスウイルス,水痘帯状疱疹ウイルス,デングウイルス,ハンタウイルス,カンジダ,ヒストプラスマ,マラリア原虫,シストイソスポーラ,クリプトスポリジウム,イソスプラ,エキノコックス,蛔虫,ランブル鞭毛虫,肝吸虫,サルコシスチスが無石胆嚢炎の報告がみつかりました。
自己免疫疾患では中~小血管炎が大切です。結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、悪性リウマチやSLEで報告が多く胆嚢に限局した血管炎の事もあります(不思議な事に多発血管炎性肉芽腫症の報告はありません。)。他には成人発症スティル病、抗リン脂質抗体症候群、薬剤性過敏症症候群や血管性浮腫による無石胆嚢炎の報告もありますが非常に稀です。
最後に悪性腫瘍ですが、悪性リンパ腫(特に血管内悪性リンパ腫)が最も重要です。まれにリンパ球性の白血病やそれ以外のリンパ増殖性疾患でも報告があります。胆道癌・膵頭部癌・転移性癌による胆道閉塞や胆嚢壁浸潤も鑑別にはあがります。
このように非ICU領域の無石胆嚢炎には様々な原因がありますが、感染症ではEBウイルス、自己免疫性疾患では血管炎(SLEを含む)、悪性腫瘍では悪性リンパ腫の3つを念頭に鑑別を進めれば良いと思います。
第3章 診断がつけられなかった症例 〜そのときどう考えたか・どう対応したか,今どう考えるか これも勉強になる症例が7症例!
第4章 正しい診断を導くために 〜これからの診断学
最後のまとめとして、診断思考プロセスのピットフォールや正しい診断戦略やAIに関しても記述されています。
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