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ドゥガーウィン 診断のための診察と検査

本日、手元に届きました。丸太町病院のメンバーで翻訳した、思い入れのある書籍です。

A5版とはいえ、1168ページのボリュームはズッシリきます。もちろん、内容もズッシリで、監訳するだけでもとても勉強になりました。



本書は“DeGowin’s Diagnostic Examination 11th Edition” の和訳本である。“DeGowin’s Diagnostic Examination”を一言で説明するならば「臨床医のための身体診察+α本」である。


本書はDiagnostic Examination,つまり診断のための診察や検査について解説したものであり,身体診察のみに限った書籍ではない。しかしながら身体診察は非侵襲的で,迅速にベッドサイドで評価ができるという優れた点がある。身体診察は問診よりも疾患や病態に

特異的な所見が得られることが多いことも優れた点である。そのため,本書では必然的に身体診察について詳しく書かれている。

 人は見たいと思ったものしか見ることができないといわれるが,このことは身体診察においても当てはまる。身体診察の適切な知識がなければ,何を診るべきかがわからず,診るべき所見を診ることはできないのである。そこで本書では,まれではあっても知ってさえいれば一発診断できる身体診察が多数紹介されている。アミロイドーシスによる肩パッド徴候などはその例といえよう。これらの身体診察は職人芸と呼ばれるようなものではなく,知ってさえいれば診断に直結するものが多い。これらは臨床をまだ知らない学生にとっては難しいと感じられるかもしれないが,臨床医ならば日々の診療スキルをレベルアップさせてくれる至極の身体診察のオンパレードを堪能できるであろう。


数多くある身体診察の書籍のなかでも“Bates’ Guide to Physical Examination & History Taking”は身体診察の入門書として名が高い。また“Sapira’s Art and Science of Bedside Diagnosis”は身体診察を極めし者の愛読書ともされる。しかし臨床医になってから“Bates”を読み直す医師は少なく,“Sapira”を通読している医師も多くはない。身体診察を系統的に学び直すことは,時間の限られた臨床医にとって些かハードルが高いようである。

 本書の特徴の一つは,臨床推論の流れを再現していることである。理解に必要な解剖学・生理学的な解説にはじまり,特定の症候を呈する患者に対してどのような疾患を想定すべきか,どのような問診や身体診察を行うべきか,あるいはどのような検査を追加すべきかについて解説している。そのため臨床医はストレスなく楽しみながら読み進めることができる。この点だけでも本書は臨床医が身体診察を学ぶにはうってつけの書籍といえよう。


また,本書は必ずしも重大ではないが臨床医が知っておくべき病態について数多くふれている。これが「身体診察+α」の「α」部分である。この病態の記述は一つ一つは非常にコンパクトではあるが,実に臨床に役立つ。最初に本書と出会ったのは監訳者が医師4年目の時であったが,precordial catch症候群や流行性筋痛症といった病態は本書で初めて知り,またすぐに臨床の場で役立ったことを今でもよく覚えている。今回,監訳の任にあたって本書を見直したが「理容師の指間部にできる毛巣洞」など知らなければ診断が難しい疾患を数多く学び直すことができた。

 この文章を執筆している2022年8月はサル痘流行が世界的に問題となっているが,本書にはサル痘についても記載されており,書籍サイズに似つかわしくない膨大な情報量であることが窺える。もちろんサル痘は昨今まではあまり国内では問題視されることは少なかった疾患であり,このような日本の実情に即さないと思われる記載については,監訳にあたり適宜訳注をつけさせていただいているので,ご安心いただきたい。


問診・身体診察・検査という診断学の一連の流れを学びなおしたい臨床医,洗練された身体診察の知識を身につけワンランク上を目指したい臨床医,自分の専門外領域の診察方法を学びたい臨床医,学生時代には習わなかったが知っておくと役立つ病態を学びたい臨床医,今よりも広く鑑別診断をあげられるようになりたい臨床医,さまざまな病態の診療を行う必要があるプライマリケア医や総合診療医に,特に薦めたい一冊である。若手医師のみならずベテラン医師であっても学ぶことが多い書籍であり,「(すべての)臨床医のための身体診察+α本」と思う次第である。


50年以上にわたり世界中の医師に愛読され,個人としても思入れの深い“DeGowin’s Diagnostic Examination”を,洛和会丸太町病院 救急・総合診療科の同僚たちとともに翻訳する機会を得られたことはこのうえない僥倖であった。協力してくれた多くの方々に感謝するとともに,少しでも多くの医師が本書を手に持ち,明日からの診療に役立ててくれることを願う。

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