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(最終回)在宅患者の増悪・急変を見抜く 入院を回避するための気づき,アセスメント,エビデンス(16)

在宅新療0-100でお世話になったこのシリーズも今回が最後です。

最終回は「救急紹介時に必要な情報」という題です。



まずは紹介するかどうかの判断ですが、検査結果はあまり意味がないというデータがあります。検査結果に頼りがちな病院勤務医の立場からすると、採血を施行せずとも重症であると判断し適切に紹介ができる開業医に遭遇すると尊敬の念を隠せません。病院勤務医も検査結果をみる前に入院となるかどうかを決定するトレーニングをすべきだと思います。検査結果に振り回されずに患者評価をできるようになるために、私は検査結果をみる前に看護師に入院予定かどうかを必ず伝えるようにしています。恥をかけば成長しますから。



救急外来を受診した高齢者のリスク分類方法にはISARやTRSTなどが知られています。



これらは確かに有用ではありますが、診断特性はとっても低いです。例えば独居で社会支援がないということは自立していることの裏返しであり、予後不良因子ではないという報告もあります。この低い診断特性に対する解釈の違いが紹介元もしくは家族の想いと、紹介先の医師の判断との乖離につながります。


 病院勤務医は入院依頼に至らせた家族や紹介医の不安を理解する必要があります。この理解を助けるためには紹介状がとても大切です。救急担当医・上級医・入院担当医にまで情報を確実に伝達するため、電話ではなく文面で記載するのが確実です。病歴や身体所見は病院でも取り直しますので、紹介状の意義はかかりつけ医にしか分からない情報を伝える事です。

 例えば「病識が乏しいため入院を希望されない可能性がありますが、アドヒアランスが非常に悪く往診での治療が困難です」や「家族の介護疲れが目立ちレスパイトを兼ねて入院加療をお願いしたい」の一言があれば軽症でも入院とするでしょう。残念ながらこの感情や情報の共有が十分にされていないことは、我々病院勤務医が反省すべき点です。

 病院勤務医では分からないADLの変化、家庭環境、認知症患者の意識変容なども紹介状頼みとなります。非常に元気そうにしている高齢者が、敗血症によるせん妄であるとは、初めて会う救急医が見抜くことは時として困難なのです。


一方、「医学的に入院の絶対的適応ではないが、週末のため念のため入院させて欲しい」ような場合は病院勤務医としては最終判断を入院先に委ねて欲しいと感じています。 理由は2つあります。 一つ目の理由は入院に伴うリスク増大はその時の病床運用状況によって大きく異なることです。入院によるメリットとデメリットのどちらが上回るかについては、紹介元しか知らない情報と入院先しか知らない情報を合わせなければ判断できません。(適切な紹介状をもらった)病院勤務医が適切な判断をする責務を負うほうが良いのです。

二つ目の理由は病院を受診するだけで不安やリスクが軽減できる事です。丸太町病院では24時間365日、総合診療科医が救急外来も一般内科病棟も管理しています。万が一、夜中に救急車で来院しても自分たちで直接診療を担当します。そのような利点を生かしていつでも緊急受診を責任もって受けられるという安心感を与えることができ、場合によっては入院を回避することができます。


 なお、入院決定をしなかった事で、患者家族の紹介元への信頼を損ねたことは今までありません。それは「早いタイミングで診させて頂いて安心しました」という言葉により、入院にならずとも病院を受診しておいたメリットをご家族にご理解頂いているためであると思います。在宅診療という限られた医療資源の場で不安が残るならば、気楽に紹介できる病院が必要です。在宅診療で一人の医師がすべてのリスクを背負い込むことには何のメリットもありません。在宅診療と病院が一つのシステムとして働くことで患者家族に安心を与え、在宅診療におけるリスクを分散できる、そのようなシステムを構築できれば良いと日々考えています。


 最後は持論を展開してしまいましたが、この連載が在宅診療を行われている方々のお役に少しでも立ったならば、大変有難く思います。



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