総合診療 2020年 8月号の 特集は
「マイナーエマージェンシー門外放出 知っておくと役立つ! テクニック集」
でした。
比較的遭遇機会の高いものを扱っていますので、知っておいて損がない内容ですね。
【異物のマイナーエマージェンシー】
眼瞼異物
外耳道内の虫
鼻腔内異物
ステーキハウス症候群
入れ歯誤飲
【脱臼のマイナーエマージェンシー】
顎関節脱臼
肘内障
肩関節脱臼
膝蓋骨脱臼
股関節脱臼
【顔のマイナーエマージェンシー】
紫外線角膜炎
耳介損傷とカリフラワーイヤー
耳垢栓塞
鼻部・鼻中隔損傷
鼻出血
口腔周囲損傷
下顎部裂創
歯が折れた
【指先のマイナーエマージェンシー】
スライサー損傷
陥入爪
爪下血腫・爪床損傷
マレットフィンガー
PIP関節脱臼
指輪除去法
ヘアーターニケット症候群
Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!|医学と日常の挟間で| 「患者さんからの素朴な質問にどう答える?」
は第5回になりました。今回は「笑い過ぎて死にそう」です。
笑っている人は長生きするというデータがあります。でも生存率の疫学調査では、原因か結果かは分かりません。確かに笑いによるNK細胞活性化など基礎的なデータはありますが、あくまで仮説にすぎず、笑っているから健康なのか、健康だから笑っているのかは分からない。
医学で笑いを応用しているものに、ピエロがあります。いわゆるホスピタルクラウンですね。映画パッチ・アダムスでも有名です。子供の不安もとりますが、両親の不安もとってくれます。
親の不安が取れることから、笑いの効果は周囲にも好影響を与える事が推測されます。クレッペリン検査終了後に他者の笑い声の録音テープを聴くと、副交感神経が優位となり(リラックスした状態となり)、自覚的ストレスも軽減というデータもあります。
笑いを治療に用いる報告もあります。メタ解析でうつ、ストレス、不安のスコアは有意に改善と報告されています。楽しめば笑うし、うつやストレスが軽快するのは理解しやすいですね。面白くもないのに笑ったフリをするという”Non-humor”でも改善と報告されていますが、質は低いエビデンスしかありません(3報告のみで全てPubMed未収載 )。これは眉唾です。
「笑い過ぎて死ぬ」というのは、紀元前5世紀の画家ゼウクシスは自分の描いた女神がユニークすぎて、それを見て笑いながら死んだと伝えられており、世界中で昔から言われることのようです。しかし、笑い過ぎて死んだ人を診た事も聞いた事もありません。調べたところでは、以下の論文しか正式には報告されていないようです。この報告では後天性QT延長症候群の患者が笑う事で徐脈が引き起こされ、それをきっかけにtorsade de pointes(TdP)が起こったと考察しています。
最後に病的な笑いについてです。面白くもないのに笑ってしまうものですね。小児では視床下部過誤腫によるてんかん発作(gelastic seizure)が有名です。突然笑う発作を繰り返しますが、特徴的な発作様式や合併しうる思春期早発、発育障害、認知障害により疑うことが出来ます。
成人ではfou rire prodromique(フランス語)が知られています。2003年までに19例しか報告がされていない稀な病態ですが、英語訳はprodrome of crazy laughterであり、狂ったように笑うことから始まる脳血管障害のことを言います。病変部位は大脳辺縁系・視床下部・脳幹の報告が多いですが、明確にはされていません。持続時間は10-15分(47%)であることが多いですが、1時間以上(35%)という報告も珍しくありません。1分未満の持続時間な症例が1例ありましたが、その症例では3週間で何度も(several)発作を起こしていることから、笑いの様相だけでも病的と判断できると思います。
それ以外にはワライタケ中毒において、シロシビンによる幻覚作用で笑うことが知られています。
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