今回は私が司会だったので写真を撮っていませんが、症例+私のコメントの備忘録として記載します。開催は10月8日だったので、記憶が薄れ大分抜けているとは思いますが、ご容赦下さい。
嚥下機能低下と体重減少をきたした80代男性。
誤嚥性肺炎契機に入院するも、嚥下機能低下を認めるため神経診察を行ったところ舌や骨格筋萎縮と線維束性攣縮、姿勢時振戦を認めた。
上位ニューロン徴候はない。診断はなにか?
私のコメント:
線維束性攣縮があるので、筋萎縮性側索硬化症(ALS)をはじめとした運動ニューロン疾患、中でも下位運動ニューロン障害を来す疾患を疑う。鑑別は3つ。
ALSは1万に以上の患者数がいること(内科医なら必ず出会う=初期研修医でも知らなければならない疾患)、数年で死亡しうる予後不良疾患であるという2点で最重要でまずは押さえたい疾患。診断基準は多々あるが、①複数部位(脳幹・頸髄・胸髄・腰仙髄)に所見があることと、②上位と下位ニューロン徴候のいずれも存在するという2つが必要。今回は上位ニューロン障害がないため診断は保留となる。
次に重要なのは球脊髄性筋萎縮症(SBMA)。1000人以上の患者がいるため内科医ならいつかは出会うぐらいの頻度。ADLと異なり下位ニューロン障害。重要なのは①成人男性、②振戦、③女性化乳房。振戦は初期症状として重要。女性化乳房の他にも糖尿病、脂質異常、Brugada症候群の合併などが言われるが、最も分かりやすく特徴的なものとして女性化乳房をまずは覚えておきたい。今回は男性で振戦があるため、最も考えやすい。
最後に脊髄性筋萎縮症(SMA)で、これは球脊髄性筋萎縮症と名前が似ていることから同じ下位運動ニューロン病と覚えておく。小児に多いことから内科医が診断することは稀とは思われる。遺伝子治療の薬価が1億6707万円ということが話題になったので知っている人も多いかも知れない。子供の未来が1回の治療で救われるのでこの値段が付いたと考えれば良い。
ちなみに説明しなかった疾患として原発性側索硬化症(PLS)がある。これは上位運動ニューロンだけが障害される疾患でALSの鑑別としては重要であるが、患者数は100名程度でめったに遭遇しない。
歩行不能、食思不振、右前腕しびれを呈した60代女性
なぜ歩行不能なのか診察すると膝の急性単関節炎と判明した
私のコメント:
歩けない主訴は実際に歩こうとさせてみて何が問題か探るのが大切。意識障害なのか、筋力低下(左右差・上下肢差・近位/遠位)なのか、起立性低血圧なのか、失調なのか、疼痛なのか、呼吸困難なのか・・・
関節炎は経過、個数、分布、随伴症状の4つを聴取する。今回は急性単(大)関節炎。この場合は鑑別は化膿性関節炎、結晶性関節炎、外傷の3つ。診断には関節穿刺が重要だが、結晶の存在は化膿性関節炎の否定にはならないことは明記しておきたい。
偽痛風の基礎疾患にはCa、Fe、Mg、IP、甲状腺機能の異常などが知られている。今回はそれらはチェックされているが、ALPの記載がない。稀ではあるが成人~高齢者において偽痛風契機に低ホスファターゼ症が見つかることがあるため、注意しておきたい。
抗がん剤治療中に筋力低下を呈した44歳男性
胃癌に対して抗癌剤治療中。Nivolumabを含む治療に切り換え2コース後に両下肢脱力・筋肉痛が出現。
筋力低下は近位筋優位。CPK 511。両側大腿直筋や二頭筋、左内転筋等にSTIRで高信号域が散見。
以後、筋炎と診断し免疫抑制療法行うも、ショック状態に至る。心筋炎の併発も確認された。サイトカイン放出症候群が疑われた。
私のコメント:
免疫チェックポイント阻害薬の副作用は一般内科医も知っておかなければならない。一般的には皮膚、消化管、肝臓、肺、内分泌が5大副作用とされる。特に内分泌系は自己免疫的機序が働くため下垂体炎を初めとして様々な異常をきたす。それ以外には神経系と自己免疫疾患が有名。特定のパターンがある程度知られているものの、研修医は何でもありうると覚えてもらった方が良いかも知れない。今回は初めから筋症状が目立ち、多発性筋炎発症と考えますが、来院時のPRが120と頻脈であり甲状腺機能のチェックなども必須と思いました。
この症例は複雑な症例のため、診断ならびにマネージメントに対するコメントはなかなか難しいですが、一般内科医も知っておいても良いと思ったのは、腫瘍領域においては、サイトカイン放出症候群という概念があるということです。腫瘍領域ではおそらくCAR-T療法で最もよく知られています。ただ免疫チェックポイント阻害薬でおこるのは私は不勉強ながら知らなかったので、比較的珍しいのかも知れません。CAR-T療法はT細胞に遺伝子導入して癌細胞に対して攻撃させる治療ですが、とても激しい免疫反応を起こし重篤な状態になることがありますが(サイトカイン放出症候群)、IL-6を抑えることで日単位で急激に改善するため、この概念は知っておく必要があるのです。抗IL-6抗体はサイトカイン放出症候群に対する効果が期待されるだけではなく、ステロイドのように広汎な作用ではないので腫瘍に対する効果は残存することが期待されています。
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