第24回日本心不全学会学術集会の教育講演15で講演させて頂きました。
なぜか敗血症の定義を説明
講演タイトルは「ショック患者の身体診察」だったのですが、少し脱線し敗血症の定義の歴史についてもちょっと解説しました(Sepsisの語源はギリシア語で崩壊や腐敗を表すseptikosとされますが、近年の定義のみ解説)。
1991年に感染症によってSIRSとなっている病態
2016年にいわゆるSEPSIS-3が発表:SOFAが2点以上増加もしくはICU以外ではqSOFA≧2点が敗血症の定義として提唱された。
2016年の基準がSEPSIS-3というからには1991年の基準との間にSEPSIS-2があるはずですね。
SEPSIS-2とは何か?
2001年にとっても複雑な基準で、しかも曖昧で、診断特性も改善しなかったため普及しなかった基準です。以下にその基準を紹介します。
感染症の存在が確定もしくは疑いであり,かつ下記のいくつかを満たす(項目数規定なし)
(1) 全身所見
発熱:深部体温>38.3℃
低体温:深部体温<36℃
頻脈:心拍数>90回/分あるいは年齢平均の2SD
頻呼吸
精神状態の変化
明らかな浮腫または体液過剰:24時間以内で+20mL/kg
高血糖:糖尿病の既往が無く血糖値>120mg/dL
(2) 炎症所見
白血球上昇>12000/μL
白血球低下<4000/μL
白血球正常で>10%の幼若白血球を認める
CRP>基準値の2SD
プロカルシトニン>基準値の2SD
(3) 循環所見
血圧低下:収縮期血圧<90mmHg,平均血圧<70mmHg,もしくは成人で正常値より>40mmHgの低下,小児で正常値より>2SDの低下
混合静脈血酸素飽和度(SvO2)<70%
心係数(CI)>3.5L/min/m^2
(4) 臓器障害所見
低酸素血症:P/F(PaO2/FiO2)<300
急性の乏尿:尿量<0.5mL/kg/hr×2時間
クレアチニンの増加:>0.5mg/dL
凝固異常:PT-INR>1.5,もしくはAPTT>60秒
イレウス:腸蠕動音の消失
血小板減少<10万/μL
総ビリルビン上昇>4mg/dL
(5) 組織灌流所見
高乳酸血症>1mmol/L
毛細血管再充満時間延長,もしくはmottled skin(斑状皮疹)
下線部分が1991年の定義で使われていた項目に相当しますが、重症度と関連が乏しいことが指摘されています。頻呼吸だけなら過換気発作でも起こるし、ちょっと緊張したら心拍数>90ぐらい珍しくありません。
太字がqSOFAに相当します。検査は不要で臓器障害を示唆する重篤な臨床所見が当てはまります。死亡率予測においてqSOFAは優れた指標であることが繰り返し示されており、現在ではSEPSIS-3に従った敗血症診療が一般的に行われています。
皮膚所見:SEPSIS-2から学ぶ重要性
ここでSEPSIS-2から以下の2項目を満たす所見を探してみて下さい。
1.臨床的にすぐに判断できる:検査が不要
2.臓器障害を強く示唆する:血糖が高いだけ、白血球が多いだけはダメ
そうすると、qSOFA以外では5)組織灌流所見 皮膚の所見(毛細血管再充満時間延長、斑状皮疹)しかありません。ということでqSOFAの次に重要とも考えられる皮膚所見の重要性について重点的に話をさせて頂きました。これ以外には皮膚所見に関する臨床的なエビデンスを解説しましたが、最近はこのテーマで話をすることが多いので、話の続きは次回紹介させて頂きます。
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