患者に向き合う医療
山中克郎(福島県立医科大学会津医療センター)
講演の中から普段陥りやすいピットフォールを紹介
Q 包丁で左中指の先端5mmを切断。ゲンタシン軟膏®️を塗布したガーゼで傷口を保護したは正しい診療か?
A
× 抗菌薬入りの外用薬は傷を悪化させ、正常な創治癒を阻害する。接触性皮膚炎を起こし発赤、痛み、炎症を引き起こす可能性を上げる。抗菌薬への耐性も起こす。
Q 数年前にサバを食べて皮疹が出たことあり。その後はサバを食べても異常なし。特異的IgE検査をオーダーした。
A
× 明確な食物アレルギーの病歴がなければ、特異的IgE検査(RAST)は行うべきではない。特異的IgE検査の感度は高いが特異度が低い。
Q 変形性膝関節症に対してアセトアミノフェン
A
× ACPによるとアセトアミノフェンは股関節や膝関節の疼痛に関しては無効である。副作用の少ないNSAIDs湿布薬が第一選択として勧められる。湿布薬で効果がない場合はアセトアミノフェンの併用を考慮
Q 心不全が増悪し入院。ループ利尿剤の投与で症状は軽快、10日で退院。次回の外来予約を1週間後に設定
A
× 心不全患者が退院し自宅での順調な療養に移行するために大切な要素が2つある。
退院2-3日後に電話で様子を確認することと(看護師あるいは医師)、7−14日以内に外来予約をとることである
ジェネラリストが日本の医療を救う!
八重樫牧人(千葉西総合病院)
日本の医療が、ガラパゴスと呼ばれる理由の例。
現時点で明確な推奨度を決定できない急性膵炎に対するフサン、FOY。これらの薬剤の年間出荷額は72億円だそうです。
糖尿病治療薬シェアNo1がDPP-IV。米国では当然メトホルミンです。大血管症予防効果はアジア人でも実証されており、しかも薬価が安いためですが、なぜか日本のガイドラインでは第1選択と明記されていない。日本の糖尿病のガイドラインは米国のガイドラインに少し遅れて追従するということを過去ずっと繰り返していますが、メトホルミンが軽視される記載に関してだけは是正があまりされていません。「なにかしらの圧力」を感じますね。ジェネラリストが「安かろう、悪かろう」ではないという理由/根拠。非常に同意させられる内容でした。
人類生存への脅威とその処方箋
徳田安春(群星沖縄臨床研修センター)
オスラー先生は息子さんを第一次大戦で失っており、大戦後は難民救済に貢献されておられます。有名な「平静の心」の中で、以下のように述べています。
「戦争は魂を粉微塵に吹き飛ばす、という点だけは申し上げておきたい。この大戦において、人間性というすこぶる繊細な感性は、原始的な野蛮行為の波を食い止めるために文明がいかに無能であるか、宗教がいかに無力であるかを知って衝撃を受け、麻痺状態に陥ってしまった。
有志以前と以後を問わず、歴史の頁は黒く塗りつぶされてはいるものの、これほど長期にわたり集中的に行われた受難の時期は、人類史上いまだかつてなかったものである。」
「1916年初頭、私は英国タイムズ紙に次の寄稿文を寄せた。『報復への叫びは、戦争が分別ある人間をも極悪非道な精神状態に突き落とすことを物語っている。私は無抵抗主義ではなく、やむを得ぬ場合には防戦する者だが、どんなに激しい挑発を受けようとも、罪なき者達の血で我々国民の手を染めるべきではないと信ずる。この点に関して、我々は流血の罪を犯してはならない。』」
日野原重明先生は「医師にとって最も重要なことは戦争をさせないこと」とおっしゃっています。戦争をしないではなく、させない。そんなことが医師にできるのでしょうか? できるんです。していくべきなんです。
アメリカで銃乱射事件で「沈黙は賛同」という呼びかけで医師を動かした話。
“Professional silence in the face of social injustice is wrong.”
(社会的な不正義のなかでのプロの医療人の沈黙は間違っている)
“Silence is now political.”
(沈黙は今や政治的行動である)
その他に世界で、あるいは沖縄での様々な事例を紹介して頂き、我々医師がよりよい世界のために、もっとできること、すべきことがあるのではないかと、考えさせられる講演でした。徳田先生は視野が広すぎて、人間が大きすぎて、圧倒されます。
いきるを支える患者のみかた、隠れたニーズを叶えよう
五十野博基(HITO病院)
顧客に聞いても、顧客の要望はわからない。ヘンリー・フォード曰く、馬車の時代に自動車など思いつかないわけなので、「もし、人々に”移動手段として何が欲しいのか?”と聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えただろう」。学校のかけっこで、左回りにこだわった左右非対称ソールを持つ靴など。
iPhone全員もっているのは羨ましいです。丸太町病院は4月から全職員iPhone入る可能性がありましたが、ちょっと遅れているようです。待ち遠しいですねぇ。
デザイン思考をもって受領体験を良くすること。没頭して、先入観なしで、専門的知識に引きずられず、判断は保留して、記録することが大切。
具体例;診察順番来ても入室遅い⇒実際に待合室で自分が体験し、患者に「共感」することから始める。モニターが斜めから見にくかったことが原因だったため、画面の角度調節を行った。これは患者アンケートでは吸い上げられていなかった。
他に無料バスの乗降の様子を確認して、雨除け、段差改善、手すり調節などを計ることは大事なことと思いました。
またベッドで食事を食べるときのテーブルの高さ問題(差尺問題)。これはなかなか改善しなかったが、むしろ食べる場所を病室の外、デイルームへ変えることが大事だった。「食べる、寝る、排泄の場が一緒は、敗北である」という理念に沿う形であるが、これは私が10年以上前から師長に言い続けているが、当院では達成できていないことです。成功例(ただしコロナ流行前だが)があることは大変励みになりました。
これらもアンケートでは得られなかったニーズ。そういった隠れたニーズはきっと沢山あるんでしょうね。私も病院内外で隠れたニーズを探し出せるようにがんばろうと思います。やはり動画での記録が良いようです。
Sustainableな診断原則を再考する
鈴木慎吾(千葉中央メディカルセンター)
診断のピットフォール症例を多く提示して頂きました。
症例を2つだけ簡単に共有。心原性脳梗塞で入院中の中年男性。入院時から37-38℃台の発熱が2週間以上持続。下記精査で原因不明のため内科コンサルト。PR-3 ANCAが104と著明高値。
答え:感染性心内膜炎。PR-3 ANCA陽性はむしろ特徴的とも言えます。
20代の総胆管結石症。
答え:遺伝性球状赤血球症 小児の胆石症では溶血疾患は有名ですが、20台だと悩みます。CT陰性だったのは混合石だったんでしょうか。
あとは自分の発表に備えてスライドチェックします・・・・
総合診療を楽しく学べる職場作りを目指して
上田剛士(洛和会丸太町病院)
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