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JAK阻害薬の使い分け

JAK阻害薬はトファシチニブ(ゼルヤンツ)、バリシチニブ(オルミエント)、ペフィシチニブ(スマイラフ)、ウパダシチニブ(リンヴォック)、フィルゴチニブ(ジセレカ)の5種類が現在販売されています。


添付文書を比較してみました(選択性はIC50値から判断)。

トファシチニブとウバダシチニブは併用薬に注意が必要で、バリシチニブは腎障害に注意が必要です。帯状疱疹が多いというのがJAK阻害薬の特徴ですが、ペフィシチニブの副作用が群を抜いて多い。これは後述するようにJAK2選択性低いにも関わらず貧血も多く、指標設定が何か違うのかも知れません。そこで最近のメタ解析を読んでみました。


メタ解析の結果を紹介する前に、まずは基礎的な話です。阻害されるJAKのサブタイプ(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)によって関連するサイトカインが異なり薬効は異なると予測されますが、まだ臨床的な差異はよくわかっていません。

サイトカインからみるとIL-6はJAK1ともJAK2ともTYK2とも関連があり、効果だけを考えれば阻害するサブタイプが多いほうが抗炎症効果は期待できそうです。

JAK1が細胞性免疫、炎症、リンパ球分化、抗ウイルス作用全般に関わる中心的な役割を担っています。JAK2はG-CSF、EPO、TPOと関連しており造血にも関わるので副作用プロファイルに注意が必要そうです。TYK2はIFNα、IFNβに関連がありウイルス活性化に差異があるかも知れません。

Biomolecules . 2020 Jul 5;10(7):1002.


最も報告が多いトファシチニブ(ゼルヤンツ)、バリシチニブ(オルミエント)の2剤の副作用を比較してみると、JAK1,2,3を阻害するトファシチニブよりもJAK 1,2だけを阻害するバリシチニブのほうがJAK2選択性が高いとも言え、血球副作用が多いことが示されています。これは添付文書からは読み取れませんでした。やはり添付文書だけ見ていてはだめですね。

図:BaricitinibとTofacitinib副作用報告における比率 (Biomolecules . 2020 Jul 5;10(7):1002.

よりデータ一部抜粋し作成。注:報告された副作用のうちどのような副作用が多いかを比較したもので、副作用の発生率を直接比較したものではない)


それでは肝心の効果の比較ですが、ネットワークメタ解析の報告がありました(J Clin Pharm Ther . 2020 Aug;45(4):674-681.)。

ACR20を比較した効果判定ではペフィシチニブが最も効果が高い可能性が高かったです。さすがすべてのJAKを非選択的に阻害するだけはある、ということでしょうか。フィルゴチニブがそれに続きます。ただこれらの薬剤は論文数が少なく、今後のエビデンスの蓄積(特に直接比較のデータ)によってはその結果が覆ることはありえそうです。ウパダシチニブやバリシチニブの効果は弱い傾向にあるため、副作用プロファイルが良くなければ積極的に使う理由はなさそうです(バリシチニブは肝障害のある患者に使いやすいのはありますが)。


副作用の解析ではトファシチニブだけが他剤に優位性を証明できました。併用薬の問題がクリアできれば、もっとも安全に使える薬剤とは言えそうです。ただプラセボより安全という結果は数字のマジックですねぇ。

SUCRAをグラフ化してみました。右上の薬剤ほど優れた薬剤です。またこれらのデータは3-6か月しか観察期間がないことに注意してください。


あとはいくつか蛇足です(図表はImmunotherapy . 2019 Jun;11(8):737-754.より)。

トファシチニブは5mgではなく10mgの方が効果が高い。潰瘍性大腸炎では一定の条件下では10mg BIDが認められている。MTX併用下ではADAと効果同等ではあるが、単剤では効果は劣る。


バリシチニブは北アメリカでは2mgでしか認可されていないそうだ。2mgや単剤でも比較的良い成績に思えるが、2mgしか認可されていないのは、4mg投与で機序不明なるも深部静脈血栓症が報告されたから(だと思う)。明確なデータは乏しいものの、JAK阻害薬投与中は悪性腫瘍、消化管穿孔、深部静脈血栓症、間質性肺炎については頭の片隅に入れておく方が良いと思います。


ペフィシチニブは日本初の薬剤のためかデータが少ないですね。ADAとの比較がされていないJAK阻害薬です。そういった意味ではJAK 1stで選択される薬剤ではないかも知れません。併用薬の制限がほとんどなく、腎障害ある場合に最も使いやすい薬剤ということはウリでしょう。50mgでは効果乏しいことになっていますが、小柄な高齢者では50mg錠を使うという選択肢はあるかも知れません。


ウパダシチニブはその後RCTで効果がADAより勝るという報告もでています(Arthritis Rheumatol . 2019 Nov;71(11):1788-1800.)。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)とアトピー性皮膚炎に追加承認を申請しています。


フィルゴチニブは2020年9月発売のもっとも新しいJAK阻害薬です。JAK1,2に選択性が高いという特徴で選ぶなら、腎障害あればウバダシチニブ、肝障害があればバリシチニブ、併用薬を気にすればフィルゴチニブという使い分けはあるかも知れません。裏ネタについてはまだ何も知りません。


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