急性心膜炎の心電図所見は古くから知られていますが、診断特性についての報告は稀有でした。この度診断特性に関する論文をみつけたので紹介します。
まずは一般論。急性心膜炎の検査所見は心電図で広範なST上昇とPR低下です。心嚢水は30-60%という報告があり、エコーだけでは除外診断できないことに注意です。
l急性心膜炎の検査所見(n=179)
Emerg Med J. 2013 Dec;30(12):1003-8. PMID: 23221455
典型的には以下の経過をとりますが、典型的な心電図変化は60.1%でしか認められません(J Am Coll Cardiol . 2004 Mar 17;43(6):1042-6. PMID: 15028364)。
次に新しい論文。
急性心膜炎の心電図(心筋梗塞によるST上昇との鑑別)
J Emerg Med . 2020 Apr;58(4):562-569. PMID: 32222321
ST上昇をみたら、PR低下の有無を確認する。これがもっとも急性心膜炎の診断に有用である。心膜は心房にもつながっていますから心房心筋障害を反映している特徴的な所見と昔から言われていて納得です。ただしTa波をPR低下と捉えてしまうことはありますし、早期再分極は心房にも影響を与えうりますから、心筋梗塞以外のST上昇と比較した論文も欲しいところではあります。
つぎにSpodick徴候を確認する。これはTP間で1mm以上右肩下がりとなる徴候です。まことしやかに言われていましたが、この徴候があればPR低下と同じく特徴的な所見ということが今回証明されました。
Perm J . Winter 2014;18(1):e122.
そしてST低下があれば心筋梗塞と考える。つまり鏡面像を確認するということ。鏡面像あれば心筋梗塞。逆に心膜炎では広汎なST上昇が特徴ですから、ST上昇/低下の分布は心膜炎の診断にも心筋梗塞の診断にもどちらにも重要ということ(LR+もLR-も十分)。
Ⅲ>Ⅱ誘導のST上昇も心筋梗塞。これはRCA病変疑うので有名ですね。心筋梗塞でない場合は心室の興奮ベクトルはⅡ誘導でⅢ誘導より大きく、QRSは高くST上昇の程度も大きい。ところがRCA病変では下壁が障害され、この場合は障害心筋方向にあるⅢ誘導でより異常を検出しやすいという理屈でした(参照:院内レクチャー)。
あとは若干診断特性が落ちますがSTが上に凸だったりR波から急速にT波が立ちあがる(RT checkmark=RからT波が✓マークのように立ち上がる)場合も心筋梗塞考えます。RT checkmarkはエキスパートオピニオン的な感じで耳学問で広がった所見らしいですが、今回初めて医学論文に取り上げられた所見です。
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